トランプ前大統領、H-1Bビザに年間10万ドルの手数料を課す新たな大統領令に署名
2025年9月19日(現地時間)、アメリカのドナルド・トランプ前大統領が、外国人高度人材向けの就労ビザ「H-1Bビザ」に対し、年間10万ドル(約1,480万円)の手数料を課す大統領令に署名したことが、大きな波紋を呼んでいます。この記事では、この突然の政策転換がもたらす影響や背景、今後の見通しについて詳しく解説します。
H-1Bビザとは?
H-1Bビザは、アメリカ合衆国の企業が高い専門性や技能を持つ外国人労働者を雇用するための就労ビザです。特にIT業界やエンジニア、サイエンティストなどの分野で多く使用されてきました。多様な国からの優秀な人材がアメリカの成長を支える重要な制度であり、毎年多くの申請があります。
今回の新制度の主な内容
- 年間10万ドルの手数料を新設:これまで数千ドル〜1万ドル程度だったH-1Bビザの申請費用が、大幅に引き上げられます。
- 一度のみではなく毎年発生:この手数料は申請時のみではなく、毎年継続して支払う必要があります。
- 対象:全てのH-1Bビザ申請者:技術職や高度専門職に従事する外国人労働者が対象となります。
新制度導入の背景
トランプ前大統領は、「アメリカ人の雇用を守る」ことを政策の大きな柱として掲げてきました。
今回の施策強化の目的は、海外からの技能労働者の流入を抑え、米国内雇用を促進するためだと説明されています。また、昨今の国内雇用情勢の変化や、保守的な支持層へのアピールも背景のひとつと考えられます。
H-1Bビザ利用者の現状と反応
- 業界別影響:IT、テクノロジー分野において、H-1Bビザ保持者は数多く活躍しています。2023年実績では、インド人が約7割、中国人が約1割と報じられています。
- 企業の依存度:アマゾンをはじめとする多国籍IT企業は、有能な外国人の採用にH-1Bビザを最大限活用してきました。新制度はこれら企業の採用・人材戦略に大きな影響を与えるとみられます。
- 著名人からも懸念の声:イーロン・マスク氏は2024年、「多くの企業やイノベーションはH-1Bのおかげで成立している」とSNSで言及し、懸念をあらわにしました。
想定される影響
- 若手・新卒のアメリカ就職は困難に:高額な手数料は、年収10万ドル未満の“低賃金”外国人労働者にとって重大な負担となり、ビザスポンサー獲得が極めて難しくなります。結果、新卒や経験の浅い労働者の米国就職はほぼ不可能に近づく見通しです。
- MBA留学生や若手人材の選択肢が狭まる:アメリカへ私費でMBA留学を考えていた人たちにとっても、「就職の見込み」が著しく減少し、費用対効果は大幅に低下します。今後は米国MBA卒でも現地就職が難しくなる可能性が高まります。
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企業の戦略転換:高額な手数料を負担できる高収益企業や一部のエリート人材に人材層が偏ることになり、市場の多様性とダイナミズムにも影響が出る懸念があります。
中小企業やスタートアップは、新たな人的コストの増加を嫌って、他国に事業機会を移す動きも出てくるでしょう。
申請者へのアドバイスと代替策
多くの日本人やアジア人の米国志望者たちは、今回の新制度の施行に対して今後どのような進路を選択すべきか、悩む事態となっています。現実的な選択肢として以下が挙げられます。
- Lビザ活用:日本企業・日系外資系企業に就職し、Lビザ(企業内転勤者ビザ)で本社や現地支店に駐在する方法。Big4監査・コンサルや証券・商社経由でのニューヨーク勤務などが主な事例です。
- 投資家・起業家ビザ:多額の資本を投じて投資家ビザや起業家ビザを取得し、合法的にアメリカ居住・ビジネスを展開する方法。いわゆる“ゴールデンビザ”と呼ばれるものです。
- 日米以外でのキャリア形成:「アメリカ就職」の道を諦め、日本や他の国、または欧州・アジア各国で働くという現実的な判断も増えつつあります。コストとリスクのバランスから、日本国内でのキャリア構築を選択する若手も多くなっています。
移民政策の評価と今後の見通し
トランプ政権は、これまでも就労ビザの制限強化を繰り返し進めてきました。2020年以降では一時的なH-1B発給停止例があるなど、方針には一貫性が見られます(事実上の移民抑制)。
一方、シリコンバレーや米国のスタートアップ企業を牽引してきたのは、まさに多様な出自・経歴を持つ外国人の存在でした。長期的には人材流出や米国のイノベーション力低下につながるリスクも指摘されています。移民政策の在り方を巡り、今後も激しい議論が予想されます。
まとめ
今回のH-1Bビザ手数料引き上げは、アメリカだけでなく全世界の人材・企業にとって大きな転換点となる出来事です。今後、個人・企業は急速な環境変化に対応した戦略転換が求められるでしょう。特にアメリカでのキャリアを志す方々には、情報のアップデートと柔軟な戦略立案がますます重要になっていきそうです。