トリドールHDが挑む新時代の経営改革―丸亀製麺店長年収最大2,000万円の衝撃、その舞台裏

2025年9月、外食産業における大胆な新施策が業界内外の注目を集めています。丸亀製麺をはじめとした多数のブランドを展開するトリドールホールディングス(以下、トリドール)は、「省人化」がトレンドとなっている現在のマーケットに逆らい、従業員の内発的動機を軸とした人的資本経営をさらに深化させる「心的資本経営」へと舵を切りました。そしてその象徴とも言える、丸亀製麺店舗責任者(店長)の年収を最大2,000万円へと大幅に引き上げる新報酬制度が発表されました。

丸亀製麺の店舗責任者、年収最大2千万円へ――その背景と狙い

  • 年収最大2,000万円の新報酬制度

    これまで外食産業の現場責任者の年収は数百万円台が主流でしたが、トリドールはこの慣例を根本から覆す施策を実施します。「丸亀製麺 店長の年収最大2,000万円」という新制度は、「唯一無二の感動創造」に挑む従業員の意欲向上、人材確保・定着を目的とした取り組みです。競合他社と比較して圧倒的に高い報酬の支給は、優れたリーダー人材を業界内外から引きつける強力なインセンティブとなるでしょう。

  • 人的資本経営から心的資本経営へ

    トリドールが掲げる「心的資本経営」(2025年9月始動)は、「従業員の”心”の幸せ」と「お客様の”心”の感動」を両輪と判断。従来の人的資本(人材の能力・スキル・経験)重視からさらに踏み込み、従業員の内発的動機(やりがい・幸福感・自己実現)を企業成長のSourceと位置付けています。報酬だけでなく、働きがい、感動体験の創造、地域貢献を包括的に追求する姿勢が、長期的な成長と持続的な人材確保に繋がるモデルを志向しています。

  • 新しい福利厚生として「従業員の子どもの飲食代無料化」

    従業員の仕事への満足度向上だけではなく、その家族をも思いやる施策として「従業員の子どもの飲食代無料制度」が導入されます。経済的なサポートと共に、家族が店舗を訪れることで従業員自身もプライベートを大切にでき、職場に対する誇りや親しみも深まります。人材確保の側面だけでなく、職場環境全体の安心感を高める効果も期待されています。

省人化の流れに逆行、丸亀製麺「ハピカンキャプテン」制度の狙い

  • ハピカンキャプテン制度

    丸亀製麺では「ハピカンキャプテン」と呼称される新たな役職を設け、来店客だけでなく従業員同士の幸せや心の満足度向上をミッションとしています。2025年11月からの導入に向けて、店長研修やジョブローテーションが積極的に進められています。

  • 店舗責任者への期待の変化

    これまで「現場力」「マネジメント力」が重視されていましたが、今後はリーダーシップに加え、“感動体験”を生み出すコミュニケーション力や、幸せな職場空間をプロデュースできる能力が評価軸の中心になります。報酬だけでなく、店舗の成功が自身や家族の幸福に直結する制度設計により、内発的動機(自律・誇り・成長欲)を最大限に引き出す狙いが明示されています。

丸亀製麺・トリドールグループが描く成長戦略

  • 国内外全社一丸の成長体制

    トリドールHDは「One Toridoll」の精神で、国内と海外の壁をなくし、その枠組みを超えた「全員野球」の成長体制を志向しています。丸亀製麺社長は各国の店舗を巡回し、グローバルで活躍できる人材を育成。また、国内・海外両セグメントの従業員が相互に現場を経験することで、企業文化や価値観を一体化させる取り組みが進行中です。

  • 中期経営計画とグローバル展望

    2022年策定の中期経営計画(2023~2028年)では、丸亀製麺を基軸に、ブランド力・DX(デジタル改革)・海外進出の3本柱による成長戦略を展開中。2028年には売上高4,200億円、営業利益380億円、世界店舗5,500超を目標として掲げ、その計画はさらなる上方修正が行われています。

    特に、国内事業の利益率が他社を圧倒する16%超に達しており、TamJaiやFulham社買収などでリスク分散と収益力強化を目指した多角的攻勢が顕著です。株式市場でも強い成長期待を保っており、挑戦的な目標に現実的な実行力を伴わせている点が評価されています。

心的資本経営がもたらす新しい外食モデル

  • 離職率の低下を狙い、持続的成長モデルへ

    高報酬化だけでなく、従業員とお客様双方の「心」を資本とした好循環モデルは、離職率の低下、教育・採用コストの削減、地域社会との結び付き強化など、多様なメリットを生み出します。未来の外食産業においてただ効率化や省人化に走るのではなく、人的資源を最大限活かした店舗運営、ロイヤリティの向上、独自性の追求が肝要と考えられています。

  • 感動の創造と幸福の循環

    従業員が幸せに働き、店舗に誇りを持てることで、お客様へのサービス品質も自然と高まります。それは、トリドールが目指す「食の感動で、この星を満たせ。」というスローガンの実現へと直結しています。単なる給与・待遇の改善だけでなく、社員一人ひとりの心の幸福を企業成長のドライバーと位置付けた点が、従来型外食チェーンとは一線を画する革新性です。

今後の課題と展望

  • 人材確保とオペレーションコストの課題

    圧倒的な報酬体系や福利厚生によって優秀な人材が集まる一方、店舗運営に伴う現場課題(教育・オペレーションの高度化、サプライチェーンの構築など)は引き続き慎重な対応が必要です。ただ、トリドールはDXやM&A、地域貢献事業との掛け合わせで多様なリスクヘッジを想定し、現場管理者の自律性向上と企業の成長力の両立を追求しています。

  • 外食産業の今後のモデルケースへ

    従来の「省人化・効率化」一辺倒から大きく舵を切り、「人が人を動かし、感動を生む」経営哲学は社会的評価・産業全体のスタンダードとして新潮流となる可能性を秘めています。丸亀製麺・トリドールの取り組みが、外食サービス業だけでなく広範な業種の人材活用にも影響を与えていくことでしょう。

まとめ

トリドールHDの「心的資本経営」と丸亀製麺店長の年収最大2,000万円という新報酬制度は、従業員一人ひとりの心と人生に寄り添いながら、お客様・地域社会とのつながりを深め、新時代の外食モデルの先駆けとなっています。これからの外食産業は、人を起点とした幸福循環型経営が鍵であり、トリドールの改革がその未来図を鮮やかに描いています。

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