SCOサミット2025に見る地政学とエネルギー転換の現在地

はじめに

2025年9月、中央ユーラシアの主要国が集う上海協力機構(SCO)サミットが開催され、アゼルバイジャンによる実利的外交、中国の大規模なグリーンエネルギー約束、ユーラシアの「新世界秩序」構築に向けた議論が大きな関心を集めました。これら最新トピックを紐解きながら、SCOサミットが持つ地政学的な意味と、再生可能エネルギーを核とした国際競争の最前線を、分かりやすく解説します。

SCO(上海協力機構)サミット2025の概要

上海協力機構(SCO)は、中国とロシアを中心に中央アジア諸国やインド、パキスタンなどが加盟する地域安全保障・経済協力組織です。2025年9月のサミットには、中東や南コーカサス諸国からもオブザーバーやパートナー参加が進み、組織の多極化が進んでいます。

  • SCOは地域の治安、経済発展、エネルギー協力などを主要課題としています。
  • 2025年サミットでは、特にエネルギー協力と域内の安定化への協調が重視されました。

アゼルバイジャンの「実利的外交」とSCOサミット

今回のSCOサミットで注目されたのがアゼルバイジャンの外交戦略です。カスピ海資源の産出国である同国は、欧州・トルコ・イラン・ロシア・中国など複数勢力とのエネルギー取引や交通インフラ連携の要衝に位置し、地域の安定と繁栄のカギを握っています。

  • アゼルバイジャンは多国間外交を駆使し、SCOを通じた経済・安全保障両面での協力深化を図っています。
  • 近年はトルコやロシアのみならず、中国とも強固な関係を築いています。
  • ユーラシア横断パイプラインイニシアティブや、カスピ海資源の共同開発、海上新航路の創設などが協議されました。

現実主義に基づく外交戦略の背景

アゼルバイジャンは、長きにわたり地域の地政学的リスクと向き合ってきました。アルメニアとのナゴルノ=カラバフ紛争の余波もあり、外交の現実主義(実利的外交)を貫く姿勢が鮮明です。

  • エネルギー資源を梃子に経済力の強化と多国間バランス外交を推進。
  • EU・中国・ロシアなどグローバルなパートナーシップ拡大を通じて、単独依存を回避。
  • 国家主権と安全保障の確保、経済インフラの近代化に焦点。

中国、国外における「20GWの再生可能エネルギー約束」

同サミットで大きな関心を集めたのが、中国が今後5年間で海外に20GW規模の風力・太陽光発電能力を導入するとの宣言です。これは、気候変動対策とエネルギー主権をめぐる世界的なパワーシフトの象徴です。

中国の再エネ戦略:世界規模での台頭

中国はすでに世界最大規模の再生可能エネルギー国家であり、国内・国外での野心的な成長計画が特徴です。

  • 2025年5月時点で、実用規模の太陽光発電・風力発電設備建設1.3TW超を推進。
  • すでに1.4TWの再エネ設備が稼働し、世界のリーダー的存在。
  • 太陽光・風力の大規模案件が次々と建設、発表、計画段階にあり、700GW超の発電能力が準備中。
  • 2024年のみでも141GWが稼働予定で、世界の新設再エネの主要部分を中国が担います。
  • 2030年までに風力・太陽光発電容量合計12億kW(1200GW)以上への倍増が政府目標。

20GW国外供給の意義と課題

  • 20GWという数字は、中国が国外で推進中あるいは契約済みの大型再エネ案件群を背景にした極めて大きな数字です。
  • 東南アジア、中東、アフリカ、中央アジアなどで、現地企業との協力や設備供与を推進。
  • この野心的な約束の達成には、現地のインフラ整備、送電網の拡張、資金調達、政策協調など多数の課題が指摘されています。
  • また「グリーン」な側面と共に、戦略的パートナーシップや現地雇用創出、経済圏拡大の意味を持っています。

中国再生可能エネルギーの現在地

中国の太陽光・風力発電市場は2020年代に飛躍的成長を継続中であり、資本投入・技術進化・コスト競争力すべてで世界をリードしています。

  • 太陽光発電は設置容量・コスト両面で世界一に。
  • 洋上風力は2018年の約43GWから2025年は50GWへの急拡大が見込まれています。
  • 新興市場でも、中国製エネルギー設備のシェア拡大が顕著です。

「ユーラシア三角形」と新世界秩序:大国競争の新展開

SCOサミットでは、「ユーラシア三角形」(中国・ロシア・インド+補完国)がグローバルな「新世界秩序」の中核になるとの見方が浮上しました。

  • 中国は経済・技術、ロシアはエネルギー・安全保障、インドは人口・経済成長で独自の強み。
  • 三極が協力・競争しながら域内ガバナンスと国際秩序形成に大きな影響を及ぼしつつあります。
  • 欧米日など旧来G7中心の国際秩序から、多極化・ローカル・ブロック化へと世界構造が変化。

特に再エネやインフラ、AI・デジタル技術における競争と協調が今後の世界経済と安全保障の行方を左右するとみられています。

再生可能エネルギー競争の最前線:SCO諸国と世界潮流

近年のSCO加盟国や関係国は、再生可能エネルギー分野でも新たな競争と協力の構図を形成しています。

  • カザフスタン、ウズベキスタン等中央アジア諸国は、中国や欧州からの投資や技術導入を加速。
  • ロシアや中国は新規原発・風力・再エネルギーに関連する共同プロジェクトを推進中。
  • 持続可能な成長と脱炭素、経済安全保障への関心が拡大。

こうした協力には地政学的、経済的な思惑が交錯し、エネルギープロジェクト一つとっても単なる「脱炭素」や「経済成長」だけでなく、国際勢力圏の再編、テクノロジーとインフラの主導権争いが色濃く反映されています。

世界のエネルギー政策とSCOの未来

地政学的リスクや国際競争の高まりの中、SCOを中心とするユーラシア地域は今後、世界的なエネルギー転換と地経学の最前線でその存在感を増していくことが予想されます。

  • 今後もSCO加盟・パートナー諸国による域内協力・競争の深化が続くことは確実です。
  • エネルギー、インフラ、デジタル技術、人的交流分野での新事業・新政策に引き続き注目が集まります。

再エネと都市・交通インフラ、AI・デジタル経済、地域安全保障といった複合分野で中国、アゼルバイジャン、ロシア、インドなどの実利的な協調と競争が世界秩序の転換をリードしていくことでしょう。

おわりに

SCOサミット2025は、国際秩序の移り変わりと共に、アゼルバイジャンの現実的外交、中国の再生可能エネルギー拡大、ユーラシアの新たな協調時代の到来を象徴しています。多様な国益と戦略が交差するこの舞台で、今後の世界の進路に注目が集まります。

参考元