「規律の鬼」キーエンスの強さを解説――徹底管理と自由闊達、成果を生む仕組みとは

「キーエンス」と聞いて、「勤勉」「管理」「規律」「営業の鬼」などの言葉が連想される人は少なくないのではないでしょうか。一方で、まるで対極にあるように思われる「自由闊達な会社」との比較や、働き方改革の進む現代でなぜこれほど成果を出せるのか――そんな謎が、いま多くのビジネスパーソンから注目されています。

規律と管理の徹底――成果を生む最強の仕組み

キーエンスの営業・人事の仕組みは、他社とは一線を画す「徹底した管理」が特徴です。例えば、営業活動の一つ一つは「外出報告書」と呼ばれる書類で細かく管理されます。この報告書には、いつ、誰と、何のために、どのように、どれくらいの時間をかけたのか、といった情報が1分単位で記録されます。上司はこのデータをもとに1on1で内容を確認し、個別にアドバイスを行います。こうした緻密なプロセス管理が、成果を最大化するための基盤となっています。

また、営業電話の本数やDM送付数、アポイント取得数など「努力量指標」も日次で管理されます。大切なのは「成果(結果)」だけでなく「行動(プロセス)」そのものを可視化し、全員がそれを意識できる環境を整えていることです。これにより、「頑張った人がきちんと評価される」文化が根付き、新入社員も自発的に行動量を増やそうと努力します。

行動量の多さが売上に直結しやすい業種であるため、「行動量を最大化すれば売れる」というシンプルなロジックが浸透しています。一方で、無駄な時間を過ごさせないため、労働時間への意識付けも徹底されています。たとえば、「時間チャージ」という社内指標では、1人1時間あたりでどれだけ付加価値を生んでいるかを数値化し、時間効率の最大化を図っています。

「さん付け」「です、ます口調」の徹底が生む合理性

職場の雰囲気や人間関係にも、キーエンスならではの特徴があります。たとえば、一般的な企業では上司が部下に対して「君」やタメ口で話すことが珍しくありませんが、キーエンスでは「部下に対してもさん付け」「です、ます口調」で話すことが徹底されています。これには合理的な理由があります。

「さん付け」「です、ます口調」の徹底は、職場での上下関係や親しさよりも、「客観的で冷静なコミュニケーション」を重視する姿勢の表れです。社内の意思疎通が円滑になり、不必要な感情の対立や誤解を避けることができます。また、全員が平等な立場で意見を出し合いやすくなり、より最適な案や改善策を導きやすくなります。こうした小さな仕組みの積み重ねが、組織全体のパフォーマンス向上につながっているのです。

「スッポン話法」――元営業マンが明かす売れる電話トーク

話題の「スッポン話法」は、元キーエンス営業マンが編み出した電話営業のノウハウの一つです。顧客から「忙しいからまた今度」と断られたとき、一般的な営業なら諦めてしまうところですが、ここが実は大チャンスだと考えます。

「スッポン話法」のポイントは、断られてもすぐに切り上げず、相手の状況に寄り添いながら、再アプローチのチャンスをうまく引き出すことです。たとえば「お時間をいただきありがとうございます。また後日ご連絡差し上げてもよろしいでしょうか?」と丁寧に確認し、次回のアポイントを確保します。押し付けがましくなく、相手の立場を尊重しながらも逃さない。この絶妙なバランス感覚が、高い成約率に結びついています。

この手法は、日々の行動量管理と相まって、営業の成果を最大化する大きな要因となっています。つまり、徹底した行動管理の上で、質の高いコミュニケーションスキルが磨かれることで、キーエンスの営業は「量と質の両立」を実現しているのです。

目的意識と付加価値最大化――キーエンスの経営哲学

キーエンスの経営の根底には、「付加価値の最大化」という強い目的意識があります。付加価値とは「売上と原価の差分」であり、自社の事業活動で生み出された新しい価値を意味します。キーエンスはこれを「社会への貢献」と位置づけ、最小の資本と人で最大の付加価値を上げることを目指しています。

この目的意識は、日常業務の細部にまで浸透しています。上司や先輩から「その目的は?」「何のためにやっているのか?」と常に問われ、社員は自分の行動の本質を考える習慣が身につきます。これにより、既存のやり方や常識にとらわれず、よりよい方法を模索する文化が根付いています。

また、若手のうちから責任ある仕事を任せる風土も特徴です。業務は任せつつも、サポート体制を整え、社員が早い段階から成長できる仕組みを実現しています。これが、会社全体としての成長とイノベーションを支えている要因の一つです。

合理的な評価制度――成果を全員で共有する

キーエンスの人事制度も独自の工夫がなされています。たとえば「業績賞与」は、営業利益の一定割合を全社員に還元する制度です。年4回支給されるこの賞与は、会社の業績をリアルタイムで感じやすくする意図があります。個人の成果だけでなく、会社全体の業績を考え、経営参画意識を醸成する狙いがあるのです。

こうした合理的な評価制度によって、社員一人ひとりが会社の成長と自分の成長を直結して捉え、一丸となって高付加価値な仕事を目指す文化が醸成されています。

キーエンス流を考える――私たちが学べること

キーエンスの強さは、「規律の鬼」と呼ばれるほどの管理と、一方で自由闊達な社風のバランスにあります。徹底した数値管理と行動量重視の評価、丁寧なコミュニケーション、明確な目的意識、そして合理的な人事制度――これらの仕組みが有機的に結びつき、圧倒的な成果を生み出しています。

もちろん、すべての企業や職種で同じ方法が最適とは限りません。しかし、自社の状況に合わせて取り入れるべき要素を見極め、営業力や組織力の向上に活かすことは、多くの企業にとって示唆に富むでしょう。

キーエンス独特のやり方が話題になる背景には、現代の多様な働き方や個性重視の風潮の中でも、しっかりとした仕組みと規律が成果に結びつくという事実があるからです。今後も多くのビジネスパーソンや経営者が、この「キーエンス流」から何を学び、どう自社に取り入れるか、注目していくに違いありません。

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