長万部町が新幹線貨物ターミナル駅を誘致 その背景と物流維持に向けた課題
はじめに
長万部町(おしゃまんべちょう)が近年話題となっている背景には、北海道新幹線延伸後の鉄道物流問題と新幹線貨物ターミナル駅の誘致活動があります。
北海道新幹線は、2025年度の札幌延伸を予定しており、それに伴って函館~長万部間の「海線」における貨物鉄道の存続や、地域の物流拠点としての新たな役割が注目されています。今回はこの問題や動きについて、行政・有識者・住民の視点も交えながら、詳しくご紹介します。
長万部町、新幹線貨物ターミナル駅誘致を本格始動
長万部町は新幹線貨物ターミナル駅の誘致に名乗りを上げ、そのための関連予算案を町議会で可決しました。町の地理的立地を生かし、物流の要衝として新たな役割を果たす狙いです。
従来、長万部は北海道南部と道央圏・本州を結ぶ交通の要所として重要な役割を担ってきました。今後新幹線と連動した貨物ターミナル機能が整備されれば、鉄道物流の再編と集積拠点としての発展に大きな期待が寄せられています。
- 道南いさりび鉄道やトラック輸送との結節点として、中継・分配機能の強化
- 新幹線延伸で旅客・貨物両方の効率化と地域経済活性化
- 新幹線貨物ターミナルによる雇用の創出、住民定着への波及効果
有識者会議による「貨物鉄道維持」の重要性と課題整理
北海道新幹線の札幌延伸に伴い、並行在来線であるJR函館本線・函館~長万部間の旅客輸送は廃止されることが決定しています。しかし、本線の廃止は道内外を結ぶ貨物鉄道輸送の根幹に直結し、多くの課題を浮き彫りにしました。
国土交通省が2025年9月に公表した有識者会議の中間報告では、以下の点が指摘されています。
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鉄道貨物機能の維持は「少なくとも新幹線札幌開業時点では必要」と明記
鉄道貨物は、北海道から本州への安定物流の中核を成しており、特に食料品・工業製品の流通維持には欠かせません。 -
運営主体や維持管理の財源分担が課題
年間数十億円規模の維持費が発生するため、自治体や関係者だけで賄うのは難しい状況です。 - 鉄道施設の保守には数百人規模の人員確保が求められ、採用や育成を早期に進める必要がある
- 青函トンネルでの新幹線・貨物列車の共用も引き続き技術面の課題が残る
まとめとして、有識者会議は「函館~長万部間の鉄道による貨物ネットワークの維持が妥当」としたうえで、今後は国や関係自治体・事業者が連携しながら、最終的な結論を2025年度中に出すこととしています。
筆者が落胆した「貨物輸送問題」その現状
現地と深い関わりを持つ関係者や住民などからは、新幹線延伸による在来線旅客廃止が「物流や住民生活に悪影響を及ぼすのでは」との懸念の声も上がっています。
具体的には以下の問題点があげられています。
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第三セクター化や貨物専用線存続案でも膨大なコスト・人材負担
イニシャルで約289億円、ランニングで年間約14億円の赤字負担との試算もあり、沿線自治体単独では対応が難しい点が課題です。 -
CO2排出量増加への懸念
船舶やトラック輸送による代替は、鉄道よりもCO2排出量が多くなりやすいため、環境配慮の観点からも安易な転換は難しいとの声があります。 -
貨物新幹線化の難しさ
旅客新幹線とダイヤをどのように調整するか、荷主の確保、運賃収入の課題など、実現性は依然として不透明となっています。
筆者や有識者がとくに落胆を覚えるのは、現場の維持管理人材・資金調達のめどが立ちづらいことです。新幹線延伸によりJR北海道には新たな保線作業要員が必要ですが、そのうえで貨物専用線も維持する余力は限られるという現実が浮き彫りになっています。
新たな管理会社の設立や、訓練・採用体制の早期構築も急がれる中、「誰が主導して負担や体制づくりに責任を持つのか」が今後の最大の焦点となっています。
今後の展望――地域・経済・物流へのインパクト
長万部町の新幹線貨物ターミナル誘致と、函館~長万部間「海線」貨物鉄道の維持問題は、単に町や道南地域だけでなく、北海道全体、さらには本州への波及効果も非常に大きい課題です。
- 北海道と本州を結ぶ食料・工業物流網と広範な産業基盤の維持
- 環境負荷を最小限にとどめる持続可能な交通インフラの構築
- 適切な財源確保や人材育成による地域産業の振興と雇用確保
- 新幹線物流拠点による人口減少対策や新しいビジネス創出
この問題は、地方の物流・公共交通の今後や国全体のインフラ政策とも密接に関係しています。そのため今後も、国・自治体・関係企業・地元住民が協議を重ね、公平で持続的な合意形成が求められています。
まとめ
長万部町の取り組みは、北海道新幹線の開業を新たなチャンスと捉え、物流インフラとしての競争力強化を目指す試みです。同時に、「鉄道貨物の維持・再編」は、地域住民の生活、産業の未来、環境対策のすべてに関わる重要な政策課題でもあります。今後、関係者や住民からの声にも耳を傾け、持続的で安心できる物流システムの構築に期待が寄せられています。
北海道と本州の架け橋となる長万部町。時代の大きな転換点で、どのような解決が導き出されるのか――その動向から今後も目が離せません。