特別支援学級・特別支援学校と教員の今:増加する子ども、変わる現場の課題
はじめに
特別支援学級や特別支援学校における教育環境の変化や教員を取り巻く課題が、現在大きな社会的関心を集めています。ここ数年で、特別支援を必要とする子どもたちが飛躍的に増加し、それに伴い教員の負担や働き方も大きく変わっています。本記事では、現場の教員の声や子どもたちの現状、制度や環境改善の動きについて丁寧に解説します。
特別支援学級・特別支援学校の現状と数字
-
特別支援学級・学校の在籍児童の急増
文部科学省や地方自治体の調査によると、過去10年で特別支援学級・学校に在籍する子どもたちはおよそ倍増しています。例えば東京都の推計では、2025年度には特別支援学級は5万8854人、特別支援学校は1万6253人にまで増加する見込みとされています。全国規模でも、特別支援学校は約1,130校存在し、その半数近くが地域学校協働本部の取り組みを取り入れています。 -
広島県の最新データ
2025年度、広島県内の特別支援学校在学者数は初めて3,000人台に到達し、3,011人に増加しました。また、大規模校の一例として広島市立広島特別支援学校では、小・中・高合わせて120学級、588名の児童生徒が学んでいます。
現場で働く教員の葛藤と課題
特別支援学級や学校の現場には、単なる人員増加だけでは語れないさまざまな課題が山積しています。そのうちの一つが、教員の所属意識と呼称の問題です。
-
「〇組さん」と呼ばないで-よそ者扱いされる現実
ある特別支援学級の教員は、「クラスを”〇組さん”と呼ばず、他の通常学級と同じように接してほしい」と懇願しています。背景には、学校内での「よそ者扱い」や隔たりを感じる現実があります。特別支援学級の教員や子どもたちが、学校全体の一員として尊重されず、壁を感じているという声は少なくありません。 -
教員の業務・精神的負担
特別支援教育は、一人ひとり異なるニーズへのきめ細かな対応が要求されます。子どもだけでなく、その家族との緊密な連携や個別指導計画の作成、専門職の関与など、教員の業務は多岐にわたります。支援が必要な場面が増えることで、業務量や責任の増大、孤立感を訴える教員の声も増えています。 -
学校内での理解・協働の不足
通常学級との連携や情報共有の機会が限られ、特別支援学級の存在意義が十分に理解されないこともあるため、教員間の温度差や無理解は深刻な問題です。本来はインクルーシブ教育の理念のもと、全員で支え合う環境が理想ですが、現実には壁が残っています。
現場の取り組みと環境改善の動き
-
建物・施設面での工夫
近年の特別支援学校では、安全性確保やアクセシビリティに配慮した設計が施されています。広島市立広島特別支援学校では、廊下の幅や二段手すり、角の丸み、エレベーターの色分けなど、子どもたちが安心して過ごせるような工夫がなされています。また、窓を多用した明るい設計や、調理現場を見学できる仕掛けによって、生徒の食育やキャリア教育への意識も高めています。 -
教員が働きやすい環境づくり
徳島県では、特別支援学校の教員が参加する会議が開かれ、教員の働きやすい環境整備に向けた取り組みが始まっています。具体的には以下のような施策が検討されているそうです。- 教員配置の見直しや支援員の増員による負担軽減
- 校内外の専門家と連携したチームアプローチ
- 通常学級との垣根を低くする交流機会の拡充
- メンタルヘルスを含むサポート体制の構築
-
地域・保護者との連携
地域全体で子どもたちと教員を支えるためのコミュニティ・スクールや、協働活動が全国に広がっています。保護者や地域住民、専門家が一体となり、学校を「開かれた場所」として捉え直そうという機運が高まりつつあります。
これからの特別支援教育のために~現場の声を活かす
急増する児童生徒数に対応するだけでなく、教員の属する環境と心のケアまで支える仕組み作りが不可欠です。各地で進む制度・施設の改革は、こうした現場の声を背景に生まれてきました。今後は、特別支援教育がただ「増え続ける」だけでなく、「質」と「共生」の観点からも進化し続けることが求められます。
-
具体的な課題と展望
- 通常学級との融合(インクルーシブ教育)推進のための職員研修
- 養護教諭やカウンセラーとの協働体制構築
- ICT等デジタル技術の活用による情報共有効率化
- 教員同士・保護者間の相互理解を深めるコミュニティ活動
特別支援学級・学校の子どもたちと教員が、「同じ学校の仲間」として受け入れられ、すべての人が尊重される教育環境の実現へ。現場の声を政策や制度、学校運営に活かしていく取り組みが、日本全国で加速することが期待されます。