JAL・ANA国内線の苦境と共通化施策:値上げできぬ現実と“赤字経営”の理由
はじめに
JAL(日本航空)とANA(全日本空輸)は、日本を代表する航空会社として長年多くの国内線を担ってきました。観光やビジネスの要となる国内移動を支えてきた両社ですが、2025年現在、国内線事業は深刻な苦境に直面しています。コロナ禍からの回復やインバウンド需要の増加が見られる一方で、国内線に限っては赤字が常態化し、経営の柱とは呼べない状況になっています。
国内線の“実質赤字”が意味する衝撃の現実
- ANAの国内線の実に58%が赤字路線とされており、収益性がかつて「ドル箱路線」と呼ばれた羽田~札幌・大阪・福岡・那覇といった大動脈路線ですら大きく低下しています。
- JALでも、政府支援がなければ国内線事業は実質赤字です。コロナ前まではグループ全体の営業利益の約4割もあった国内線事業が、今や費用増に収入増が追い付かず、政府の公的支援に頼らないと利益が出ない状態となっています。
- 赤字路線の割合は2018年時点の39%から、2023年には58%へと急増。これは単なる一時的な現象ではなく、構造的な問題へと発展しています。
なぜ値上げできないのか?見えない“本当の理由”
値上げができればある程度の収益改善が見込めそうですが、状況はそう簡単ではありません。JAL・ANAの国内線が思い切った運賃値上げに踏み切れない本当の理由には、以下のような複数の背景があります。
- 競争激化と“新幹線の壁”:国内主要幹線においては航空と新幹線が厳しく競合します。特に羽田発着の地方路線や大阪発着路線は新幹線の利便性に押され、航空会社が値上げをすると利用客がますます新幹線に流れ、売上が落ち込むという悪循環が発生します。
- 需要構造の変化:コロナ禍でビジネス利用の需要が大きく落ち込んだまま戻らず、代わりにレジャー目的の利用が中心となりました。ビジネス客は一般的に高単価であるため、ビジネス需要の減少は運賃の引き上げ余地を狭めています。
- LCC(格安航空会社)や他社との競争:LCCの存在や、他社も同地域に便を飛ばしている場合、価格競争を避けることができません。値上げは競争力の低下を招きやすく難しい選択となります。
- インバウンド(訪日外国人)需要が国内線までは波及しきれていない:国際線の需要は順調に回復し、過去最高の売上高を記録するまでに至っていますが、これは主に国際線が牽引しており、国内線の収益改善に寄与する度合いは低いままです。
コスト増加の連鎖とその深刻さ
利益の減少と裏腹に、コスト面では燃油費や機材費などの外貨建てコストが急騰しています。円安や海外の物価上昇がこれらの費用に直結し、日本国内の航空会社にとって無視できない経営リスクとなっています。
- 燃油価格の上昇:ジェット燃料は主に外貨、特に米ドルで調達されるため、円安になると仕入れコストが上がる仕組みです。
- 機材・整備費等の高止まり:世界的な物価高騰により、航空機のリース料や部品、維持費が上がり続けており、経費を圧迫しています。
- 公的支援の存在:政府支援(公租公課の減免や燃油補助)がなければ、国内線の利益は確保できないというのが両社共通した苦境です。
地方路線と内際幹線のビジネスモデルの転換
これまで国内の航空会社は、幹線(大都市間)の高収益で地方路線を維持する「内部補填」型のビジネスモデルを採用していました。しかし、
幹線すら利益率が低下してしまった現在、地方路線の維持が大変困難になっています。
- 地方や離島便の赤字拡大:需要の少ない離島・地方路線はもともと収益性が低い上、燃油等の費用はさらに大きな負担となっており、継続のためには公的支援が不可欠です。
- 大都市圏の幹線も利益減少:過去には「ドル箱」として内部補填の原資だった羽田~札幌・大阪・福岡・那覇といった幹線ですら、競争激化と需要変化で収益が大幅に悪化しています。
ANA・JAL国内線の未来と異例の協業施策
このままでは国内航空インフラの維持にも影響が及ぶとの危機感から、
ANAとJALは、空港の搭乗口入場システムの共通化を推進するという異例の“タッグ”を組みました。
- 国内の約8割の空港で搭乗システムを共通化:システム統合による効率化、省力化、コスト削減を狙いとしています。例えば、保安検査や搭乗ゲートの機器・運用が共通になれば、利用者利便性も高まります。
- 異例の協業の背景には“航空インフラの共同防衛”:業界全体の生き残りと地方インフラ維持の観点からも、従来の競争軸を超えた共通課題への対応が急務とされています。
国際線好調の裏で国内線は苦戦続く
2025年に入り、JALやANAは国際線の利用者増加と収益改善によって過去最高の売上高を記録するなど、一見すると堅調な業績です。
- 国際線好調の理由:インバウンド需要や海外旅行需要が急回復。円安もあり、訪日外国人は増加傾向で国際線の単価・搭乗率どちらも改善しています。
- 国内線には恩恵及ばず:ビジネス需要が戻らず、レジャー客中心の薄利多売が続き、燃油費等のコスト増加で赤字路線が拡大。営業利益の面で国内線は足を引っ張っているのが現状です。
今後の展望と課題
政府支援は当面継続される見通しですが、根本的な解決には新たな収益構造の模索や運航の合理化が不可欠です。
市場や利用者の変化、新幹線などとの共存共栄を図りつつ、地方路線の維持や国内需要喚起にも工夫が求められます。
- 省力化・効率化の推進:自動化やデジタル化、異業種連携など、新たな技術の導入と業務統合が進む見通しです。
- ネットワーク再編と需要喚起施策:機材更新や路線再編、プロモーションによる需要再創出。国や自治体とも連携し、地方路線の維持策も重要な課題です。
おわりに
強い国際線の成長とは対象的に、国内線事業の守りと変革が喫緊のテーマとなっているJAL・ANA。今後も日本の空と地域経済を支える航空インフラとして、さらなる構造改革が必要とされています。利用者の立場でも、利便性とサービス品質の維持が今後どう変化するか、注意を払って見守っていく必要があります。