地球の酸素を支えるプランクトンに危機――今世紀末に「半減」の恐れとは?
地球の酸素の約2割を生み出している重要な存在、「植物プランクトン」が今、大きな注目を集めています。米ワシントン大学を中心とした研究チームの最新研究により、地球温暖化による海水温の上昇が原因で、今世紀末までに主要な植物プランクトンの個体数が半減する可能性が指摘されました。これによって、私たちの暮らしや地球の生態系にも大きな影響が出るかもしれません。本記事では、プランクトンの役割や危機の背景、そして私たちにできることをやさしく解説します。
1.プランクトンとは?
プランクトンは、海や湖などの水の中を漂う微小な生き物たちの総称です。中でも「植物プランクトン」は、太陽の光を利用して光合成を行い、地球上の酸素の20%を生み出していると言われるほど重要な存在です。
- 植物プランクトンは、太陽の光が届く表層の約75%に分布している
- 主な種類は「プロクロロコッカス」など、一つの細胞が1マイクロメートル程度と非常に小さい
- 地球で最も数が多い光合成生物とされています
- 海の生態ピラミッドの基礎:小さな魚や動物プランクトンがこれを食べ、さらにその上の大型魚・海洋哺乳類へと命がつながっていきます
2.なぜ温暖化がプランクトンに影響を及ぼすの?
私たちの活動による温室効果ガス(CO2など)の排出が、地球全体の気温を上昇させています。その影響は陸上だけでなく、海にも及んでいます。海水温が上昇すると、プランクトンには以下のような弊害が生まれます。
- 水温の上昇で生息可能な海域が変化し、一部の種類は住処を失う
- 栄養塩(リンや窒素など)の分布が変わり、繁殖できる場所が減少
- 海流や混合層の変化による分布の偏り
- 光合成効率自体が低下する可能性も指摘されています
3.どのように調査されたの?
研究チームは、2010年から2023年の間、太平洋の熱帯・亜熱帯海域を90回航海し、実に約8000億個という膨大な数の植物プランクトンを採取・分析しました。それぞれの海域の水温や栄養、プランクトンの種類や状態も測定し、その結果から将来の分布を予測しています。
4.研究結果と予測される影響
研究では、これまで「暖かい海ではプランクトンがより繁殖すると考えられていた」ものの、実際には極端な水温上昇により、むしろ生息数が減少する現象が確認されました。
- 今世紀末(2100年頃)までに、主要な植物プランクトン「プロクロロコッカス」の個体数が半減する可能性
- これにより、光合成による酸素生産量の世界全体での大幅な減少が懸念される
- 水産資源や海洋生態系への波及:小魚や大型魚、貝類などへの食物連鎖が乱れ、漁業、生態多様性への影響が避けられない
また、酸素生産量が減少すれば、私たちが呼吸で利用する酸素にも長期的影響が出ることが想定されます。これが森の減少と重なれば、地球全体の酸素バランスにも大きな変化が生じうるのです。
5.植物プランクトンのもう一つの役割――気候調節
植物プランクトンは、光合成によってCO2を吸収するため、地球温暖化の抑制にも役立っています。海洋は「炭素のシンク」と呼ばれ、大気中のCO2の大部分を吸収・保管しています。プランクトンの働きが衰えると、CO2の吸収量も減り、気候変動がさらに加速する可能性があります。
- 生物ポンプと呼ばれるメカニズムにより、植物プランクトンはCO2を有機物として深海へ運ぶ
- この働きの鈍化は「地球の炭素循環」にもマイナスの影響を与える
6.世界の研究・国際的な提言
プランクトンへの危機は国際的な課題です。2025年の国連海洋会議では、プランクトンの価値や保全策について議論されました。AIやリモートセンシング、環境DNA解析などの技術を用いて、プランクトンの生態や分布の詳細な把握が進められています。
- 国際連携の強化・研究の支援
- 政策決定への科学的知見の反映
- 一般市民の参加や教育の拡充が呼びかけられている
7.私たちにできることは
このような地球規模の問題に対して、私たち一人ひとりができることもたくさんあります。
- エネルギーや資源の無駄遣いを抑え、温室効果ガスの排出量を減らす
- 地球や海の環境問題について学び、家族や友人と話し合う
- 海のゴミを減らしたり、持続的な漁業を応援する商品を選ぶ
- 市民科学プロジェクトなど、身近にできる参加型活動も増えてきています
8.おわりに――未来を守るために
植物プランクトンは、目に見えない存在ですが、私たちの呼吸や気候、食卓を支える「地球の縁の下の力持ち」です。彼らの減少は、地球全体の生態系や人類の暮らしに直結しています。今回の研究をきっかけに、一人でも多くの方がプランクトンの重要性と地球環境とのつながりについて考える機会になればと思います。