京都の老舗が彩る「重陽の節句」──9月9日の今だけ楽しめる和菓子と伝統行事

9月9日は「重陽の節句(ちょうようのせっく)」。五節句のひとつであり、古来より日本ではこの日を「菊の節句」として大切に祝ってきました。京都では時代を超えて愛される老舗和菓子店が、菊の花や長寿の願いにちなんだ特別な和菓子を一斉に販売し、町は一層華やいだ雰囲気に包まれます。この記事では、京都の和菓子職人たちが手掛ける美しい菊の意匠の和菓子、そして行事としての重陽の節句の魅力を、やさしく丁寧にご紹介します。

重陽の節句とは?

重陽の節句は、五節句(1月7日の人日の節句、3月3日の上巳の節句、5月5日の端午の節句、7月7日の七夕の節句、9月9日の重陽の節句)のひとつで、奇数の中で最も大きい「9」が重なる日であることから、特別にお祝いされてきました。旧暦ではちょうど菊が咲く頃とも重なり、「菊の節句」とも呼ばれています。

菊には古くから不老長寿の効能があると信じられ、重陽の日には菊酒を楽しんだり、着せ綿(きせわた)と呼ばれる風習で、菊の花に真綿をかぶせてその露を移し、翌朝に長寿を願って体を拭く、あるいはその露をお酒に浮かべて飲む習慣も生まれました。そのため、重陽の節句は「健康と長寿を願う秋の行事」として京都中で親しまれています

京都の老舗和菓子店が織りなす「菊の上生菓子」

この季節、京都の老舗和菓子店には、ひときわ美しい菊をかたどった上生菓子(じょうなまがし)が並びます。伝統の技法と職人の創意が融合した、今だけ味わえる逸品が町に彩りを添えています。ここでは、特に注目の三軒をご紹介します。

  • 御菓子司 かぎ甚(おかしつかさ かぎじん)
    店主・髙家啓太さんが手がけるのは、毎年「重陽の節句」にあわせて販売される 三色の「着せ綿」(528円)。
    こなし生地の菊の花、中には白あん、そして綿を表現した薯蕷練り切り(じょうよねりきり)は、ふわりとした優しい口どけ。菊の露をイメージしつつ、秋らしい穏やかさを大切に仕上げられています。「食べた後、ふと忘れてしまうほど落ち着いた甘さを意識しています」と語る店主の言葉通り、優美かつ上品な味わいが好評です
  • 京菓子司 甘春堂(かんしゅんどう)
    毎年重陽の節句限定で、錦秋の「百代草」「貴花の香」「不老長寿」「菊重ね」「乱菊」など菊をあしらった上生菓子(各520円)が店頭を飾ります。
    また、和三盆糖の落雁や「すり琥珀・菊の葉」など、お干菓子も季節感たっぷりです。詰合せ(6個入り3,120円〜)を用意しているので、手みやげや贈り物にもぴったりです
  • 御菓子司 塩芳軒(しおよしけん)
    西陣の老舗である塩芳軒でも、長寿と菊をテーマとした上生菓子が並びます。「乱菊」や「長老寿」など、伝統を継ぐ職人の巧妙な技が光る逸品揃い。
    9月9日当日は店内で重陽を祝う展示やイベントも開催され、行事の雰囲気を一層高めます

重陽の節句を彩る和菓子たち──種類とそれぞれの意味

着せ綿(きせわた)乱菊は、いずれも不老長寿と健やかな日々への願いを込めて作られます。和三盆糖の落雁おひがし(お干菓子)は、ほどよい甘さと見た目の華やかさで茶席を引き立てます

  • 着せ綿:本物の菊の花に見立てた美しく繊細な練り切り菓子。綿で朝露を受け、不老長寿にあやかる伝統に基づく和菓子。
  • 乱菊:開いた菊を造形し、多彩な色合いで秋の華やかさを表現する上生菓子。
  • 百代草:古典文学でも詠われた菊をモチーフにした、おめでたい意味を持つ生菓子。
  • 和三盆のおひがし:上品な甘みと華やかな意匠で定評のある、菊型の干菓子。

それぞれの和菓子には、時代や土地に根付いた物語や願いが込められており、食べる人すべてに優しい気持ちと季節の趣を運んでくれます。

垣間見る京都の文化「重陽の節句展」と年中行事

京都市上京区役所では例年、「京の五節句と年中行事『重陽の節句展』」が開催されます。ここでは、重陽の節句の歴史や風習、美しい和菓子の展示、菊酒や菊花茶の試飲体験、子ども向けのワークショップも併設されており、誰もが伝統文化をより身近に感じられます。

町家や神社仏閣でも、菊花展や長寿を願うお祓いなどが行われ、多くの人で賑わいます。季節の移ろいと共に、京都の街並みが重陽色に染まるこの時期だけの体験は、観光客だけでなく地元の人々にとっても心待ちにされる行事です。

専門家や和菓子職人からのメッセージ

  • 京都・御菓子司かぎ甚の若旦那・髙家啓太さんは「素材に合わせて日ごとにお菓子を作り分けることで、季節の移ろいをお客様とともに感じてほしい」と語ります。
  • 甘春堂の職人は「重陽の節句は、祖父母や両親への感謝を表す絶好の機会。心を込めてお菓子作りに励んでいます」とのこと。
  • 塩芳軒の女将さんは「和菓子は、目や舌で季節を感じる日本独特の文化。職人の手仕事による意匠や、行事の意味もゆっくり味わってもらいたい」と話します

秋の京都で「重陽の節句」を満喫するおすすめの過ごし方

重陽の節句の和菓子は、その見た目や味わいだけでなく、日本人の精神文化や願いが込められた珠玉の逸品です。秋の京都を訪ねるなら、ぜひ町の和菓子店を巡ってみてください。特製の菊花和菓子を手土産や家族団欒のおともにし、季節の行事や文化にも心を寄せていただけたら幸いです。

  • 重陽の上生菓子を買って、家族で季節の行事を祝う
  • 展示や体験型イベントで伝統文化に触れる
  • 和菓子とともに、菊酒や抹茶で秋の茶会を楽しむ

日常の喧騒からちょっと離れて、京都ならではの和菓子と行事で、心も体も朗らかに秋を感じてみてください。

参考元