渡辺謙、田沼意次役で大河ドラマ『べらぼう』に区切り ―「江戸城からの開放です」に込めた感慨
話題の大河ドラマでさらなる存在感を示した渡辺謙
渡辺謙さんが、NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』で重厚な存在感を放った田沼意次役を終え、9月7日に行われたクランクアップで「江戸城からの開放です。裃(かみしも)からの解放でもありますね」と晴れやかな笑顔で心境を語りました。
本作は、日本文化・出版に革命をもたらした“江戸のメディア王”蔦屋重三郎の生涯を描いたドラマで、常に困難や波乱に満ちた時代を生き抜いた江戸の人々の姿が描かれています。渡辺謙さんが演じた田沼意次もまた、その渦中で新しい時代を切り開いた歴史的人物として物語を彩ってきました。
キャスト・スタッフから称賛の声―田沼意次という役とその裏側
同僚キャストやスタッフからも、「どこか近寄りがたい圧力とカリスマ性を同居させ、役の深みが際立っていた」と、渡辺さんの演技が高く評価されています。本人は「“見えない抑圧感”のようなものは常にありました。上からも下からも圧を受けている、そんな感覚でした」と振り返り、時代の枠に閉じ込められた田沼意次の苦悩と重責に、俳優として真正面から向き合ってきたことを語りました。
- 江戸時代後期、商業を重視した政策への大転換など、意次の政治的な意志と時代の転換点としての立場
- “見えない抑圧感”=上司・幕府トップ層、また民衆や同僚たちからのプレッシャー
- 裃(かみしも)を着て過ごした撮影の日々と、その解除による強烈な解放感
- 自身にとっての挑戦と充実した日々への感謝の言葉
田沼意次という人物―時代を変えた先見性と実行力
渡辺謙さんが演じた田沼意次は、足軽出身から遠江相良藩5万7000石の大名にまで上り詰めた実在の政治家で、バクマツ史の中でも異色の存在です。財政が破綻寸前だった幕府の運営方法を、米本位制から経済(商業)重視へと根本から転換し、印旛沼干拓や蝦夷地開発、優秀な人材の積極登用など、従来の常識を大きく覆す施策に取り組みました。
田沼意次が体現したのは「時代の境界を乗り越え、新機軸を打ち出す気概」です。その先見性は物語内でも強調され、「蔦重」が江戸カルチャーを牽引した新時代の旗手であるのと並び称されます。「経済が回ることでみんなが豊かになる、という信念が江戸を好景気に導いた」とされ、渡辺さんは田沼意次役で、その信念に翻弄されながらも民衆を思い、時に孤独さえも味方に変える人物像を活き活きと描きました。
- 大胆かつ現実的な政策転換
- 新たな人材登用への決断力
- 理想と現実の狭間で揺れる繊細な心理描写
「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」のドラマ世界と田沼意次の存在感
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』は、64作目のNHK大河ドラマとして、江戸後期の出版・メディア産業の礎を築いた蔦屋重三郎の生涯を追います。ドラマ脚本は、「大奥」など数々の名作を手がけてきた森下佳子さん。江戸の笑いと涙、夢と謎が交錯する独特の世界観が評価されています。
物語は激動の時代に生きる蔦屋重三郎の挑戦と、彼を取り巻く人々との化学反応を、繊細かつ力強く描写しています。田沼意次というキャラクターが加わることで、時代の転換点や政治構造の変化が物語にリアリティとダイナミズムをもたらしました。田沼意次の登場によって、蔦重の夢や行動がより複雑に、ドラマチックになります。
- 異なる価値観をもつ主要登場人物同士のぶつかり合い
- 社会変革に向き合う人々の葛藤や成長
- 現代にも通じる「時代の風」を見極める目線
長期に及ぶ撮影を終えた渡辺謙の今
撮影現場では、ときに微笑ましく、ときに厳格に、座長として現場を引っ張り続けた渡辺さん。ゲームチェンジャーとなった田沼意次の役作りについて、「毎回どこかで“見えない重圧”を感じながら撮影していた。単なる正義悪で割り切れない人物、理解が及ばない部分までも人物の内面に寄り添うことができた」と語りました。
クランクアップのこの日は、共演の横浜流星さんや若手キャストたちがねぎらいと感謝の言葉を次々にかける場面が印象的でした。“江戸城からの開放”との冗談も、役に完全に入り込み、魂を込めて演じ切った彼ならではのエールとして温かく受け止められています。
視聴者の反響と、今後の「べらぼう」
第34回以降は新たなキャストや展開が予定されており、物語はさらに進展していきます。視聴者からも「田沼意次の退場が物語に与える余韻が大きい」「豪快かつ繊細な渡辺さんの演技に魅了された」と多くの声が届いています。歴史の転換点を描く本作が、日曜日の夜に多くの人に生きる活力や時代を生き抜く知恵を与えていると評価は高まるばかりです。
まとめ・渡辺謙が語る「時代を越える意志」
「どうしても江戸時代劇は型にはまりがちですが、今の価値観や現代に引き寄せて生き生きと演じられました。意次という人物の“圧”を感じ、解放されると、逆にあのプレッシャーが愛しく感じてしまいました」と吐露した渡辺謙さん。大河ドラマ『べらぼう』にとって欠かせないキーパーソンであり、同時に現代に通じる物語を体現した渾身の演技でした。
- 時代の論理を疑い、自分の信じる道を貫き通す覚悟
- 悩み葛藤しながらも前進する姿勢の美しさ
- 大河ドラマならではの歴史と現代の融合
渡辺謙さんの田沼意次役は、単なる歴史の再現にとどまらず、「生きるとは何か」「時代にどう抗い、活かされていくか」を多くの視聴者に問いかけたに違いありません。今後の『べらぼう』、そして渡辺謙さん自身のさらなる活躍にも、引き続き注目が集まります。