次世代スーパーコンピュータ「富岳NEXT」開発本格化:ラピダスの役割と日米連携が拓く新時代
はじめに:スーパーコンピュータの進化と日本の挑戦
スーパーコンピュータ「富岳」は、日本が世界に誇る高性能計算機として、科学技術研究や産業界で数々の成果を挙げてきました。その「富岳」の後継機となる「富岳NEXT」の開発がいよいよ本格化し、国際的な関心を集めています。「富岳NEXT」は、従来機をはるかに上回る性能と柔軟性、そしてAIとの融合による革新的なアーキテクチャを目指しています。本記事では、ラピダス社が提供する1.4ナノCPUの委託検討、NVIDIAや富士通との協力関係、そして国家的プロジェクトとしての社会的意義について、最新情報をやさしく解説します。
「富岳NEXT」開発の全体像と国の支援体制
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基本設計業務:富士通が担当
2025年6月、理化学研究所は富士通に対し、「富岳NEXT」の基本設計を正式発注しました。設計期間は2026年2月27日までとされています。この新システムは、AI処理加速機能を有する最新CPUを搭載し、多様な計算ニーズに対応することが計画されています。 -
予算規模と国の後押し
文部科学省は2026年度予算の概算要求で169億円を計上し、国家プロジェクトとしてこれまで以上に強力な支援体制を整えています。 -
社会実装・社会的使命
「富岳NEXT」は、単なる科学技術のためのシステムにとどまらず、創薬、防災、新素材開発、そして最近注目の生成AIの利活用支援など、広く国民生活や産業社会に貢献することが期待されています。
ラピダス:先端半導体「1.4ナノCPU」委託の意味
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日本発の先端ファウンドリ
ラピダスは、日本で先端半導体量産技術を持つ数少ないメーカーです。今回、「1.4ナノメートル世代」の最先端CPUの製造委託先としてラピダスが有力候補となっていることが報じられています。 -
意義と背景
世界的に半導体の微細化競争が激化する中で、日本が独自技術で最高水準のCPU製造を目指すのは、産業技術自立やサプライチェーン強靭化、国際競争力回復の観点から非常に大きな意味を持ちます。 -
CPU「MONAKA-X」への採用
富士通は、開発中のCPU「MONAKA」の後継として、富岳NEXT向けに「MONAKA-X(仮称)」を開発。この中核部を、ラピダス製の1.4ナノチップで構築する案が検討されています。
GPU基盤:NVIDIAの参加と「純国産」からの転換
これまで日本のスーパーコンピュータは、「京」や「富岳」に代表される一貫した純国産開発が大きな特徴でした。しかし、AI時代への対応やグローバル競争力強化の必要性から、「富岳NEXT」では初めて米NVIDIAの協力を得てGPU(グラフィックス・プロセッサ)加速技術を導入します。
NVIDIAは、AI専用のハードウェア設計で世界をリードする企業です。AI処理に特化したGPUアーキテクチャを、「富岳NEXT」の加速基盤として組み込むことで、従来のスーパーコンピュータでは到達できなかった「AI-HPCプラットフォーム」の構築が目指されています。
理化学研究所・富士通・NVIDIA:三者連携体制の詳細
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プロジェクト指揮
「富岳NEXT」の開発主体は理化学研究所です。システム設計・開発は富士通が担当。GPU基盤の設計および提供についてはNVIDIAが主導します。 -
共同体制の意義
日米を代表するテクノロジー企業と国家研究所が連携することで、最高度のシミュレーション性能とAI性能、両方をバランスよく実現しうるチャレンジングな体制が構築されています。 -
ユーザー支援と社会実装
理研は、生成AIを搭載したサポートチャット「AskDona」など、社会実装に向けたユーザー支援基盤の整備も進めており、国内外研究者や企業が新たなAI技術を幅広く活用できる環境を目指しています。
目標性能:計算能力とAI処理性能の飛躍的向上
「富岳NEXT」は、従来「富岳」が誇ったHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)性能に加え、AIとの融合によって「計算能力5倍~10倍」の飛躍的向上を目指しています。これにより、以下のような特徴が強調されています。
- AI活用によるシミュレーションとデータ解析の速度と精度の大幅向上
- 医薬品設計・災害予知・新素材開発・気候変動シミュレーションなど国策テーマへの迅速な貢献
- AI生成モデルの大規模トレーニングや、民間企業による最先端AIアプリ開発利用支援
グローバルなスパコン競争と日本の戦略的課題
スーパーコンピュータ開発は米中欧を中心に激しさを増しています。米国は既にエクサスケール級のシステム「Frontier」や「El Capitan」を運用中。中国も独自CPUのエクサ級スパコンを完成させ、グローバル競争は激化の一途をたどっています。
「富岳NEXT」は、プロセッサ性能の物理的限界打破と消費電力効率の抜本的改善、応用分野拡大という三つの課題に挑むことになります。富岳が培った省電力設計技術や、幅広いユーザーとの連携による運用ノウハウも次世代機に継承されます。
今後のスケジュールと社会への期待
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開発スケジュール
富岳NEXTは、2026年2月までに基本設計がまとめられ、その後部品開発・試作・量産工程に移ります。2030年ごろの運用開始を目指しています。 -
社会的インパクト
日本が世界に誇る最高性能のスーパーコンピュータが、AI・シミュレーション技術を支え、医療・産業・安全保障・気候変動対策など多様な社会課題解決に直結することが期待されています。
まとめ:「富岳NEXT」は日本発イノベーションと新時代の象徴
次世代スーパーコンピュータ「富岳NEXT」の開発は、ラピダスの最先端半導体技術と、富士通の設計力、NVIDIAの世界最先端GPU、そして理化学研究所の総合力が融合した、まさに日本と世界の叡智の結実です。政府の強力な産業支援のもと、グローバル競争の中で新しい価値を社会に還元する本プロジェクトから目が離せません。