イェン・トゥ、ヴィン・ギエム、コンソン、キエプ・バク――ベトナム新世界遺産への旅

2025年夏、ベトナムのイェン・トゥ山を中心とする「イェン・トゥ=ヴィン・ギエム=コンソン・キエプ・バクの遺跡・景観群」がユネスコ世界文化遺産に正式登録されました。この朗報は、長年地域に根差した歴史と信仰が評価された瞬間であり、地元住民や文化・観光関係者はもちろん、多くの旅行愛好家にとっても大きな話題となっています。ここでは、その壮大な遺産の全貌と、これから期待される保護・活用の新たな推進策について、わかりやすくご紹介します。

イェン・トゥ山――ベトナム仏教の聖地

ベトナム北部クアンニン省にそびえるイェン・トゥ山は、13世紀に独自のベトナム仏教「チュックラム禅宗」が興った場所として知られています。かつて陳朝の皇帝チャン・ニャン・トンが出家し、この地で修行したことで有名です。その後、彼の足跡をたどる巡礼者たちによって、イェン・トゥ山一帯には複数の寺院や仏教施設が築かれ、歴史と信仰を今に伝えています。

  • 山頂には荘厳な仏塔や本堂が建ち並び、毎年多くの巡礼者が訪れます。
  • 豊かな自然と調和した景観は、霧に包まれる朝や新緑がきらめく春に特に幻想的な美しさを見せます。
  • ハノイから車で約2時間とアクセスも良好で、近年は日帰り観光ツアーも人気です。

「イェン・トゥ=ヴィン・ギエム=コンソン・キエプ・バクの遺跡・景観群」は、このイェン・トゥ山を核に、周辺のヴィン・ギエム寺、コンソン寺、キエプ・バク寺を含む広域遺跡複合体です。2025年に第47回ユネスコ世界遺産委員会で正式登録が承認され、ベトナム国内では9番目の世界遺産となりました。

長きにわたる世界遺産登録への道のり

世界遺産登録までの道のりは決して平坦なものではありませんでした。クアンニン省では2013年から資料作成に取り組み、文化省による審査や他県との連携、国内外専門家の調査など、多くの課題をひとつひとつ克服してきました。2019年には国外調査団よりさらなる発展の余地が指摘されるなど難航しましたが、文化関係者・住民の枠を越えた努力の末、ついに2025年夏、念願の世界遺産登録が叶いました。

  • 膨大な歴史資料の収集・整理
  • 寺院や巡礼路など現地の保全整備
  • 地域住民の理解と協力
  • ユネスコ専門家との対話と基準クリア

これらの粘り強い活動が、今回の登録決定を後押ししました。

世界遺産の構成要素――連なる4つの聖地

  • イェン・トゥ山:仏教修行の霊地であり、多数の歴史的建築や廟が現存。
  • ヴィン・ギエム寺:ベトナム最古クラスの仏教寺院。伝統写経や禅宗文化の中心。
  • コンソン寺:風光明媚な山地に立ち、仏教と儒教文化の融合を象徴。
  • キエプ・バク寺:武将チャン・フン・ダオ公の霊を祀り、信仰の対象となっている。

これら4ヵ所を一体的に捉え、「歴史・宗教・自然景観」を複合的に評価した点が、今回の世界遺産登録のポイントとなりました。

新しい政策への期待──保護と観光の両立へ

世界遺産登録を受け、地域社会と政府は文化遺産の保護・活用に関わる新たな政策展開を進めています。大きな方針は、「伝統の尊重を重視しつつ、持続可能な観光振興と地域活性化を目指す」ことです。

  • 寺院や自然観光エリアの無秩序な開発抑制
  • 巡礼路や案内板など観光インフラの適正整備
  • 現地住民による案内や体験プログラムの充実
  • 歴史・文化・宗教についての教育活動や啓発の推進

観光客の増加に対応しつつも、遺産の本質的な価値や静けさが失われないようバランスを重視した取り組みが各地で始まっています。さらに、ユネスコ基準に沿った保護管理計画の策定も進行中です。

タンランド遺産圏の広がりと観光地化の課題

イェン・トゥ遺産群だけでなく、ベトナム北部のタンランド地域には、ホー王朝城塞など別の世界遺産や国指定の特別歴史遺跡、町をあげての伝統儀式や文化イベントが次々と生まれています。

例えば、2011年に世界文化遺産となったホー王朝城塞では、堅牢な石造りの古代建築とともに、過去の知恵と苦難の物語に思いを馳せる観光体験が人気を集めています。こうした歴史文化という「遺産の流れ」のなかで、地域全体が観光による経済発展と文化への誇りを両立させるため、多様な工夫と慎重な配慮が求められています。

観光体験がもたらす新たな地域の活気

観光面では、伝統行事や地元の特産品、体験型ワークショップなどを取り入れ、「ただ見るだけ」で終わらない充実した旅の魅力を高めています。

  • 伝統芸能や祭りの見学
  • ベトナム版写経や修行体験プログラム
  • 現地ガイドによるストーリーテリング
  • 地域の農作物や料理体験

これにより、国内外旅行者が「遺産」と「今を生きる人々の営み」両方に触れ、地域の豊かさを五感で実感できる新たな発見が広がっています。

イェン・トゥ山遺産群を訪れる際の注意点

近年は観光整備も進んでいますが、天候や交通事情による変更が生じる場合もあるため、旅行前に最新情報をチェックしましょう。自然や寺院内部のマナーを守り、現地の人々・文化への敬意を持った行動が求められます。

未来へ続く「遺産のちから」

ベトナムのイェン・トゥ=ヴィン・ギエム=コンソン・キエプ・バク世界遺産群は、歴史・信仰・自然が一体となったかけがえのない財産です。世界遺産による国際的評価を生かしつつ、地域固有の文化と人々の心が未来に続くよう、保護と発展の両立を目指す取り組みが今まさに進められています。

知る、感じる、そしてつなぐ――
ベトナム新世界遺産の旅は、私たちに多くの問いと気づきをもたらしてくれるはずです。

参考元