東芝ほか大手メーカーに広がる「ゆかりの地回帰」 本社移転の最新動向
2025年現在、大手メーカーによる本社移転の潮流が注目されています。特に東芝をはじめ、富士通、ニコン、シャープなどが「創業地」や「研究拠点」といった“ゆかりの地”に本社を戻す動きが顕著です。
一方、逆に都心回帰を図るメーカーもあり、各社の方針には違いが見られます。今回の本記事では、東芝を中心とした「ゆかりの地回帰」について、その背景や目的、今後の企業経営への影響まで詳しく解説します。
大手メーカー本社移転の現状 ― なぜ“ゆかりの地”へ?
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東芝――40年ぶりに芝浦から川崎へ
東芝は約40年間本社を構えてきた東京・港区芝浦の高層ビルから、神奈川県・川崎市内のビルへの移転を開始しました。2025年8月には登記上も本店所在地が川崎市幸区小向東芝町へと移されました。
実務的にも役員室や経営企画部門などの主要部署はすでに移転を完了しており、残る広報などの部門も順次移転が進められています。 -
富士通・ニコンが続く “原点回帰” の例
富士通やニコンも同様に都心オフィスから創業拠点や研究開発施設への移転を進めています。ニコンは品川駅前のオフィスから創業地である西大井の自社ビルへ戻り、地域交流のイベントも定期的に実施中です。 -
シャープ――都心回帰を選択
一方でシャープは郊外の堺市工場から2026年に大阪市中心部へ本社機能を戻す計画で、「利便性」「人材確保」「取引先との接点強化」といった都心回帰の目的を掲げています。
東芝 本社移転の詳細――川崎が新しい拠点となる理由
東芝の本社機能移転は、2025年度上期中に実施されました。
新しい本店所在地は神奈川県川崎市幸区小向東芝町、川崎駅から徒歩1分、京急川崎駅から徒歩5分とアクセスも非常に良好です
この場所は東芝が長年にわたり開発拠点や工場を構えてきた「技術の原点」とも言える地。企業グループの親会社として東芝デバイス&ストレージ株式会社の本店も同地へ移転しています。
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地域拠点への回帰を決めた最大の理由
東芝は、コーポレートスタッフ部門と事業部との「連携強化」や、「現場との距離」を縮めるため本社機能を移転しました。
リモートワークの普及による「都心オフィス需要減」も追い風となり、経営と技術が一体となって現場主導の意思決定を迅速かつ柔軟に行う狙いです。 -
川崎駅西口エリアの発展と再開発が後押し
川崎駅西口の大規模再開発にも東芝は深く関わってきました。新たな都市機能や交流拠点として生まれ変わったこの地域は、技術系企業本社としての環境が整いつつあります。
なぜ今、本社移転なのか ― その背景と狙い
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働き方の大変革―リモートワークの定着
コロナ禍以降、リモートワークが一般化し、都心部オフィスの維持コストやオフィススペース需要が大幅に変化しました。今まで“象徴的”だった中心地のオフィスが、企業運営上不可欠な存在ではなくなっています。 -
現場力・技術力を経営に直結させる「距離感」の見直し
特にメーカーにおいては、本社と現場(工場や研究所)が物理的・心理的に離れることによる意思疎通や技術継承の遅れが懸念されていました。東芝は「現場との距離を縮め、経営と技術が一体となる」新しい組織体制を目指しています。 -
地域との共創、CSRへの意識強化
地元自治体や学校、住民とのコミュニケーションを重視し、企業の社会的責任(CSR)活動や地域貢献にもより力を入れています。ニコンは地域の小学生を招いた体験会など、地元との絆を深める活動も展開しています。 -
経費削減と資産の有効活用
都心の高額な賃料やビル管理コストから解放されることで、資産運用面でも効率化が進んでいます。空いたスペースを他用途に活用したり、資産売却も検討されています。
メーカー各社の本社移転方針 ― 比較とポイント
企業名 | 移転先 | 移転理由 | 今後の動向 |
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東芝 | 川崎市(小向東芝町) | 現場との距離を縮める、連携強化、地域貢献 | 主要機能の移転完了、今後は現場主導の経営へ |
富士通 | 創業地・研究拠点 | 原点回帰、技術開発力強化 | 同様に本社機能分散・連携強化 |
ニコン | 西大井の自社ビル | 地域交流、歴史的つながり | 小学生招待イベントなど地域密着型CSR活動 |
シャープ | 大阪市中心部(2026年計画) | 利便性、人材確保、取引先との接触拡大 | 都心へ「逆回帰」し交流強化を目指す |
今後の課題と期待 ― 本社移転が企業にもたらす新しい価値
今回の「ゆかりの地」への回帰は、メーカーの根幹である“ものづくり”や“技術力”への回帰でもあります。現場主導の経営体制、地元との連携による新規事業創出、より柔軟かつ持続可能な働き方の構築が期待されます。
一方、都心の利便性やグローバル取引へのアクセスなど、まだ課題も存在します。企業ごとの事情や戦略が如実に表れており、今後もメーカーの本社移転トレンドには注目が集まっています。
まとめ ― 東芝に象徴される本社回帰の意義
東芝の本社移転は、単なるオフィスの「引っ越し」ではなく、経営体制や企業理念の根本的な見直しとも言えます。
物理的な距離感の最適化、新しい働き方への対応、地域社会との共創、コスト効率化――これらが重なり合い、今の時代にふさわしい「本社のあり方」を模索する動きが続くでしょう。
大手メーカーの選択が、日本の企業文化や経済全体にも新しい風をもたらす可能性を秘めています。今後も各社の移転戦略、その成果や課題について取り上げていきたいと思います。