テザー、サークルが示すステーブルコインの新時代 ― 世界経済を揺るがす米国債保有と国際的広がり
はじめに:ステーブルコインとは何か?
ステーブルコインは、仮想通貨市場で価格の安定性を追求するトークンとして、多くの利用者に親しまれています。その価値は米ドルやユーロなど、現実の法定通貨に裏付けされることで維持されるため、ビットコインやイーサリアムなど他の仮想通貨に比べて、価格変動が小さく、決済や資産運用の分野で広がりをみせています。
近年、ステーブルコインの発行体が世界経済に与える影響は飛躍的に増大しており、とくに米国債の保有量などが大きな話題を呼んでいます。また、新興国の通貨に連動したステーブルコインや、国際決済ネットワークへの応用も加速しています。
テザーとサークル――世界の米国債保有ランクに迫る存在
- テザー(Tether)社は、最も広く使われている米ドルペッグのステーブルコイン「USDT」の発行元です。2025年第1四半期時点で、テザーの米国債保有額は1,200億ドル(約17.3兆円)に達し、ドイツの保有額1,114億ドル(約16兆円)を上回る規模となりました。これは、米国債保有額で世界19番目という巨大な投資主体となったことを意味します。
- テザーはこの資産運用戦略について、「分散化されたリスク管理」および「ドル建て流動性のグローバルな供給役割」を掲げています。米国債は世界でもっとも安全性・流動性に優れるとされ、これをUSDTの準備資産に重点的に組み込むことで利用者に対する信頼向上を図っています。
- サークル(Circle)も、テザーに匹敵する大規模ステーブルコイン「USDC」を発行しており、報道によればテザーとサークルによる米国債の合計保有額は、ドイツと韓国を合算した規模すら上回っています。
両社の台頭は、仮想通貨セクターが単なるIT領域を超え、グローバル金融市場における主要なプレイヤーとなったことを示しています。
背景:米国債保有が意味すること
米国債は、米国政府が発行する債券の一種であり、国際的には最も安全性が高い投資資産とされています。米国債の流動性は非常に高く、「ドル覇権」の根幹を支える存在でもあります。今回テザーが、ドイツや韓国など主要国を超える米国債保有量にまで達した背景には、USDT発行量の激増と、それを裏付ける安全資産へのシフトが挙げられます。
テザーの2025年Q1レポートによれば、USDTの流通量は同年5月時点で1,490億ドル(時価総額)に迫り、ユーザーウォレット数は4,600万件を突破しています。デジタルドル(USDT, USDCなど)が世界数十億人にとって、実質的な「選択肢」として拡大している現状が分かります。
新たな潮流:ルピー連動型ステーブルコインとグローバル化の加速
- 世界では米ドルやユーロなど主要通貨に連動したステーブルコインのみならず、インドルピー連動型ステーブルコイン(Rupee-backed stable coin)への注目も急速に高まりつつあります。インド国内外でルピーの国際化やデジタル決済拡大への取り組みが強化され、専門家から「その時代がついに来た」という声もあがっています。
- 例えば、インドの貿易・送金・資産管理分野で、ルピー連動型ステーブルコインの登場は、国際取引の効率化や流動性向上、金融包摂の促進など複数の可能性を秘めています。
- これは米ドル一極集中のリスク分散にも寄与すると考えられ、市場参加者にとって選択肢の幅が広がるきっかけとなるでしょう。
国際決済での実用化:WirexとVisaによるリアルタイムユーロ決済
- WirexとVisaは、ユーロペッグのステーブルコイン「EURC」を用いたリアルタイム決済を実現しています。従来の国際送金には数日かかることが一般的でしたが、EURCを活用することで即時着金を可能とし、手数料や処理の遅延リスクを大幅に削減できます。
- この応用は、ビジネス取引のみならず、個人のクロスボーダー送金や新興国への金融サービス拡大にも直接的な恩恵をもたらすと考えられています。
- ステーブルコインは、既存金融における「決済インフラの刷新」という役割を担いはじめており、Visaなど主要決済ネットワークと連携する事例が今後も増加する予想です。
ステーブルコインの進化と課題
ステーブルコインは今、伝統的な金融機関を脅かす存在にまで成長しています。しかしその一方で、監査体制や規制枠組みの構築、資産保全の透明性確保など、解決すべき課題も山積しています。各国政府は法律や規制の整備を急いでおり、民間企業と官公庁の連携がより一層求められるでしょう。
ステーブルコインの今後は、安全性・信頼性の担保の上にこそ、実需拡大とイノベーションが進むはずです。
日本における影響と展望
- 日本でもステーブルコイン規制は2024年から本格化し、銀行・信託会社・仮想通貨交換業者などによる発行が法的枠組みのもと認められるようになりました。
- 今後は海外ステーブルコインとの一層の連携、国内送金・資産管理における利用拡大が予期されます。企業や個人は、グローバルな視点で安全かつ効率的な資金運用手段としてステーブルコインを活用する機会が増えるでしょう。
まとめ ― 世界と日本のステーブルコイン最前線
今回取り上げたテザーやサークルの米国債保有量の拡大は、ステーブルコイン発行企業が世界金融市場において無視できない地位を築いていることを如実に示しています。デジタル資産エコシステムでは、単なる「仮想通貨」から「主要経済インフラ」への転換が急速に進行中です。
インドルピー、ユーロなど多様な通貨を裏付けとするステーブルコインの広がりや、大手決済ネットワークとの技術連携、規制と透明性の確保など、ステーブルコインはグローバル決済のスタンダードを塗り替える力を秘めています。
今後も日本を含む世界の金融・IT業界では、ステーブルコインを活用した新しいイノベーションと、それに付随する法整備・グローバル化の動きが一段と加速することが予想されるでしょう。