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「墓じまい」過去最多――変わりゆく日本人の弔いと負担の現実
はじめに
近年、「墓じまい」という言葉を新聞やテレビ、インターネットで頻繁に目にするようになりました。
少子高齢化や地方から都市部への人口移動、家庭環境の変化などを背景に、従来の「家のお墓・代々の墓」を維持し続けることが困難になっている方が増加しています。
2023年度の改葬(お墓の引っ越し)件数は、全国で16万6,886件と20年前の4倍以上。特に2022年度には15万件を超え、右肩上がりで増加し続けています。「墓じまい」は今や社会現象ともいえる広がりを見せています。
この記事では、墓じまいが増える背景や課題、新しい供養のかたちや費用負担の実情、そして当事者のリアルな声まで、わかりやすく丁寧に解説します。
「墓じまい」が増えている理由
- 跡継ぎがいない:単身者や子どもがいない家庭、未婚率の上昇や少子化などの影響で、従来のお墓を受け継ぐ人がいないケースが目立ちます。
- 維持や管理が負担:お墓参りのための帰省や墓地までの移動が高齢者や遠方の家族には大きな負担となっています。お墓が遠い・高齢で体力的に難しい・交通インフラの乏しさなども背景です。
- 子どもや家族の負担軽減:「自分の代でお墓を終わらせ、子どもに面倒をかけたくない」と考える方が増えています。
一方、自治体や公営墓地では、墓じまい・無縁墓となった区画が毎年再募集されており、特に東京都の都立霊園では2023年だけでも1,132区画が新たに募集されました。この数字からも、墓じまいの流れが加速していることが分かります。
「改葬」・「墓じまい」とは何か
「改葬」とは、お墓に埋葬されている遺骨を別の場所へ移す(お墓を引っ越す)行為です。一方で、「墓じまい」とは今あるお墓を閉じて撤去し、納骨堂や樹木葬、永代供養墓など新しいスタイルの供養に切り替えることを指します。
どちらも、お墓の維持管理負担の解消や将来への安心感を得るために選ばれています。近年は樹木葬や納骨堂、さらには「ゼロ葬(無縁供養・合祀)」など、選択肢が多様化しています。
「ゼロ葬」とは?新しい供養の選択肢
- ゼロ葬は、墓石や個人ごとの墓標を持たず、合葬や合同供養などで遺骨を管理してもらう葬送スタイルです。
- 個別に墓石を建てる必要がない分、費用負担が大幅に抑えられ、無縁墓になるリスクも回避できます。
- 平成、令和時代の時流として、都市部を中心に広がりを見せています。
家族や親族が皆バラバラに生活している現代社会では、供養のカタチも多様化しています。自分らしい弔い方、無理のない負担での供養――それぞれの人生観やライフスタイルに合わせた選択が可能となっています。
墓じまいや改葬が急増する中で生まれる課題
- 離檀料や手続きの問題:お寺のお墓を墓じまいする際、離檀料(檀家をやめる費用)や墓石撤去費、永代使用権の解除料など、思いもよらない費用が請求されることがあります。
- 親や親族の説得:昔ながらの価値観を持つ高齢の親世代は、自分の両親や配偶者のお墓を「守るべきもの」と考える方も多く、子や孫の世代が墓じまいを申し出ても、なかなか同意してくれないケースがあります。
- 無縁墓化リスク:お墓をそのまま放置すると、管理不全・無縁墓となり、強制的に遺骨が撤去される場合も。最近の調査では墓じまいをせずに放置した人のうち4分の1は無縁墓、さらに9割が「不安を感じている」と回答しています。
費用の相場と経済的負担
標準的な墓じまいの費用相場は、墓石撤去で数十万~100万円前後、行政への書類申請や新たな納骨先の手配などでさらに費用がかかることもあります。
自治体や公営霊園の中には、墓じまいにかかる費用を補助金や助成金でサポートしている所もありますが、全ての自治体で実施しているわけではないため、地域ごとの違いや最新の制度を確認することも大切です。
お墓の新しいカタチ――樹木葬、納骨堂、合同墓
- 樹木葬:墓石の代わりに木や花など自然の下で眠る埋葬スタイル。平均約67.8万円で、近年選ばれる割合が急増しています。
- 納骨堂:ビル型や屋内タイプで、アクセスや管理の手軽さが魅力。平均約79.3万円。
- 一般墓:伝統的な墓石購入型。平均約155.7万円と高額で、継承できる家族がいない場合は負担も大きくなります。
- 合同墓・合祀墓:他の方の遺骨と一緒に納めるため、費用が数万円程度からと最も安価。永代供養がついていることがほとんどです。
当事者の声――「終活」のリアルな悩みとエピソード
強い印象を与えたのが、年金12万円で暮らす82歳の母と、説得する55歳長男のケースです。
「自分が亡くなった後に、息子にまで手間や負担をかけたくない」と墓じまいを検討。
しかし、いざお寺から離檀料や撤去費を請求されると、その金額に唖然として「何かの間違いでは?」と困惑したそうです。
こうしたエピソードは決して少数派ではありません。
自分の代で<お墓のリセット>を決断し、家族に負担をかけない生き方を選ぶ方がますます増えています。
「墓じまい」ブームと今後の見通し
- 全国的な少子高齢化・ライフスタイルの多様化を考えると、墓じまいの増加傾向は今後も続くと考えられます。
- 管理しきれず放置された無縁墓の整理や、寺院・霊園の経営方法の見直し、新しい弔いや供養スタイルの提案など、社会全体で取り組むべき課題が今後も増加します。
- 一方、一般消費者の視点からは、費用の明朗化やサポート体制の充実、公的な補助制度の拡充など、安心して「終活」ができる環境づくりが求められます。
まとめ――「お墓」にとらわれず、自分らしい供養を考える時代へ
かつて「お墓は家系の象徴であり、代々受け継ぐもの」という価値観が強く根付いていました。今、家族や社会のかたちが変化する中で、「お墓の終活」も変化を遂げています。
「墓じまい」「ゼロ葬」「樹木葬」――形式や方法はさまざまですが、大切なのは「自分たちの暮らしに合った無理のない選択」を見つけることです。
将来に不安を残さず、家族と気持ちよく過ごすためにも、情報を集め、必要な手続きをし、納得のいくかたちで心の区切りをつけていくこと。これが、今を生きる日本人の新しい「しあわせのかたち」といえるかもしれません。
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