プレミアリーグ、国外開催を明確に否定——欧州サッカー界に吹き荒れる「グローバル化」の波とイングランドの選択

背景:サッカー界で注目を集める「国外開催」議論

2025年夏、欧州サッカー界はこれまでにない大きな変化の兆しを見せています。特にリーグ戦の国外開催を巡る議論が活発化し、その波紋はサッカーファンやクラブ関係者だけでなく、世界中のメディアにも広がっています。発端となったのは、スペインとイタリアのサッカー協会による「リーグ戦の国外開催計画」の発表です。これにより、欧州サッカーで長らく続いてきた「ホーム&アウェー原則」に対し、各方面から賛否が巻き起こっています。

スペイン&イタリアの動向——マイアミとパースで歴史的一戦が計画

スペイン・ラ・リーガは2025年12月にビジャレアル対バルセロナ戦をアメリカ・マイアミで、イタリア・セリエAは2026年2月にミラン対コモ戦をオーストラリア・パースで開催するという計画を正式に発表し、現在はFIFA(国際サッカー連盟)とUEFA(欧州サッカー連盟)の許可を申請中です。伝統的なホームゲーム文化を持つ欧州サッカー界にとって、これはエポックメイキングな出来事に他なりません。

この動きの背景には、近年急速に進むサッカーのグローバル化と、アメリカやアジアなど新興市場への進出意識が強く影響しています。高額な放映権料やスポンサー契約を狙ったビジネス的な狙いも明確で、各クラブやリーグは国内のファンのみならず、世界中のファン層を獲得しようとしています。

レアル・マドリードと伝統派の反発

この国外開催計画に対し、レアル・マドリードは即座に「断固反対」の公式声明を発表しました。「全チームがホーム&アウェーで戦う原則が崩れる。サッカー史の大きな転換点になりかねない」「公平性や伝統、地域密着の精神が損なわれる」といった強い言葉が使われています。また、ファンやメディアも「これでは興行優先のショーになってしまう」「クラブの歴史やホームタウンの誇りが失われる」と批判しています。

プレミアリーグの公式声明——「国外開催は一切検討の余地なし」

欧州の中心的存在であるプレミアリーグもこの議論に巻き込まれています。しかし、2025年8月13日、リチャード・マスターズCEOが公式に「国外開催の可能性を完全否定」する発言を行い、世界にその姿勢を明確に示しました。

  • 「海外で試合を行う計画はない。私の関心事ではないし、議論のテーブルに上がることもない」と明言。
  • 2008年に一度「第39節」の国外開催案が検討されたが、ファンや関係者の強い反発により実現しなかった歴史を踏まえ、「そうした提案が復活する見込みもない」ことを改めて示しました。

この公式声明は、グローバルビジネスの風潮が強まる中でも、イングランドサッカーが「伝統」を重視し、ホームアンドアウェー方式を守る姿勢を明確にしたものです。経済的なチャンスよりも、地域に根づいたクラブ文化や、サポーターとの絆を最優先する英国サッカー界ならではの判断といえるでしょう。

なぜ「国外開催」がこれほど議論を呼ぶのか?

サッカーにおけるホーム&アウェー方式は、公平性、そして各クラブと地域の人々との絆を象徴するものです。クラブごとに「ホームスタジアム」が存在し、そのスタジアムには長い歴史と独自の文化、そして地元のファンの熱い想いが詰まっています。もしリーグ戦が海外開催となれば、単なるビジネスイベントになり、多くのファンが日常的に体験してきたサッカーの本質が揺らぎかねません。

一方で、サッカー界の国際化・商業化は時代の要請でもあります。数十億人のファンを抱えるグローバルスポーツであるサッカーにとって、市場拡大のチャンスは魅力的であり、アメリカやアジアに多くの新規ファンが生まれ、各国リーグがその熱気を取り込もうと目論むのも理解できます。

歴史から見えるイングランドサッカーのこだわり

イングランドでは、2008年にプレミアリーグが「第39節」と呼ばれる国外開催の追加ラウンドを提案したことがありました。しかしこの動きは、ホームタウン農耕民の伝統やサポーターからの猛烈な反発、さらに欧州サッカー界全体からの批判により、計画段階で頓挫しました。それ以降、イングランドでは「プレミアリーグの国外開催」はタブーのように語られてきたのです。

現代サッカーのグローバル化を象徴する今回の騒動にあっても、プレミアリーグはブレることなく独自路線を守り続ける意志を明確にしました。これはイングランドがサッカー発祥の地であり、伝統や歴史を世界で最も重視する国であることにも関係しています。グローバル市場への進出よりも、いかに地元ファンや地域社会を何よりも大切にするか。この姿勢が、プレミアリーグと他リーグとの明確な一線を画しています。

今後の展望と欧州サッカーへの影響

今後、FIFAやUEFAがスペインやイタリアの「国外開催」計画にどのような判断を下すのかが大きな注目ポイントです。もし許可が下りマイアミやパースで実際にリーグ戦が行われれば、欧州サッカーの在り方が根本から変わる可能性もあります。同時に、プレミアリーグの伝統重視路線がどこまで他国リーグへ波及するかも目が離せません。

  • 経済成長や商業チャンスを重視し国外開催を選ぶか
  • 伝統を守って地域密着のクラブ運営を貫くか

欧州サッカーのトップリーグは今、時代の分岐点に立っています。ファン、クラブ、リーグ運営、スポンサー、そして地域社会。それぞれの立場と思いが交差し、議論はしばらく続いていくでしょう。

サポーターの声と社会的な意味

プレミアリーグの「国外開催否定」発言は、単なる運営上の決断ではなく、“フットボールが誰のためにあるのか”という問いへのひとつの答えでもあります。経済合理性やマーケティングを超えて、クラブと地域、ファンとの絆や誇りを守る。その強い意志がイングランドサッカーの意義をより一層際立たせています。

一方、若い世代のサポーターや海外ファンの中には「もっとグローバルに体験したい」「自国でもプレミアリーグやビッグクラブの試合を生観戦したい」という声も少なくありません。このような新しいファン層の存在が今後の議論と方針にどのような影響を及ぼすかも、長期的には見守る必要があるでしょう。

まとめ:プレミアリーグの選択が問う、サッカーの本質とは

「ピッチ上でのプレーだけでなく、そこで繰り広げられる文化や歴史、地域の誇りこそがサッカーの本質」。プレミアリーグが今回強調したのは、まさにこのメッセージです。ビジネスとしての新しいフロンティアを切り拓く一方で、守るべきものを守る。そのバランスをどう取るかは、今後の欧州サッカー界に課せられた大きな課題となりそうです。

世界中のサッカーファンにとっても、「サッカーとは何か」をあらためて考えさせられるニュースになりました。グローバル化と伝統のせめぎ合い、その最前線で揺れ動く欧州サッカーの今後を、ぜひ注目していきましょう。

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