釜山に迫る「消滅危機」と“スラム化”懸念 ― 空き家急増と人口流出が招く都市の変容
韓国第2の都市・釜山が、今「消滅の危機」と“スラム化”への懸念に直面しています。かつて流行の中心地として、また国際的な港湾都市として栄えた釜山。しかし近年、深刻な人口減少と住宅市場の長期低迷により、空室だらけの新築マンションや廃墟化したアパートが街の各所で目立つようになってきました。この現象は、若者の流出による「ソウル一極集中」と、地方大都市の衰退という韓国全体が直面する大きな課題を象徴しています。
釜山の現状―なぜ「スラム化」が懸念されるのか
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空き家・未入居住宅の急増
2024年末時点で、釜山市内の空き家は11万4245世帯に達し、2018年の9万9458世帯から5年間で14.8%も増加しました。これは全国の特別市・広域市で最も多い数字です。全住宅数の約9%が空き家という状況が、釜山における住宅市場の沈滞ぶりと人口流出の深刻さを物語ります。
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急増する「竣工後の未分譲住宅」
住宅市場の低迷が続く中、釜山内では竣工後も分譲が進まず長期間空室のまま残る新築マンションが急増しています。住宅不況がここまで長期化したのは、約15年ぶりの事態です。
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廃墟化するアパートと地域コミュニティの衰退
実際に市内を歩くと、外観は今にも崩れそうな古いマンションや、割れた窓や開きっぱなしのドアが目立つ空き家が多く目に入ります。例えば、1969年に270世帯規模で建てられたあるマンションでは、現在わずか2世帯しか住んでおらず、ほとんどが空き家という極端な“空洞化”も確認されています。
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空き家対策事業の難しさ
行政も空き家の撤去や整備を急いでいますが、建物や土地の所有者の同意が必要となることや、所有者が遠方に住んで連絡や書類手続きが煩雑なケースが多く、「速やかな対応が難しいのが現実」だと、市担当者も明かしています。
人口減少―30年で約60万人の減少と若者のソウル流出
釜山はここ30年で人口が約60万人減少し、首都ソウルやその近郊への一極集中がさらに進みました。釜山の若者や働き盛り世代は、就職や進学などより多くの機会を求めてソウル圏に流出し続けています。
- 若者の離脱が地域経済・産業の活力低下を招き、さらに住宅需要の減少と空き家増加という負の連鎖を生んでいます。
- 過疎化が進む釜山中心部や周辺地域では、スーパーや商店、教育機関など地域インフラの存続も危うくなってきました。
かつての繁華街や“ホットプレイス”も廃墟化
映画の撮影地や観光地として人気が高かった釜山の有名な文化村でも、道路を一本挟んだすぐそばに、見るからに朽ち果てた住宅群が並びます。賑わいの“陰”で深刻な衰退が進行していることが浮き彫りとなっており、釜山のイメージそのものの変質にもつながりかねません。
住宅市場沈滞と「オーバーストック」問題
釜山では、新築マンションの需要予測を大きく上回る供給が続きました。しかし、急速な人口減少や雇用悪化を背景に、それら住宅の多くが売れ残ったままとなり、不動産市況の悪化に拍車をかけています。
- 買い手がつかない空室物件が急増することで、都市景観も荒れ、一部地域では治安面や衛生面での問題も顕在化しています。
- 不動産投資の魅力も薄れ、さらなる“空き家の連鎖”が懸念されます。
「スラム化」の現場のリアルな声
「建物の管理もされず、夜は真っ暗」「空き家に不審者が出入りしている」――。現場では、住民や周辺の店舗関係者などから治安や地域衰退への不安の声が絶えません。地方都市の住宅過剰供給、人口流出、雇用機会減少という三重苦が、この“スラム化”現象の根底にあるのです。
全国的な人口一極集中と釜山の役割の変化
韓国政府は、釜山を港湾や海運・物流拠点として重点的に投資してきましたが、一方で首都圏の経済力集積と効率シフトの流れは止まる気配がありません。釜山以外の多くの地方都市も同様の課題を抱えており、「コンパクトシティ」モデルの再構築や、空き家の活用策など、都市政策の抜本的見直しが求められています。
今後の課題と展望
- 地域定住促進や若者の雇用創出――地方大学や企業との連携による「釜山で学び・働く」環境整備が急務です。
- 空き家活用の行政手続きの簡素化、所有者不明物件への法的対応強化による都市景観・生活環境の改善。
- 新規住宅開発計画の見直しと、既存ストック活用へのシフト。
- “スラム化”地域への支援――防犯・衛生対策、地域コミュニティの再生プログラムへの投資強化。
巨大都市・釜山が抱える危機は、韓国だけでなく国際的な「都市衰退問題」そのものです。短期的な住宅バブルや投資の象徴だった新築マンション群が、今や“都市の傷跡”として残りつつあります。今後も釜山再生のための政策と地域住民の取り組みが、一つ一つ丁寧に問われていくことになるでしょう。