女子高校野球の現実―トイレ「我慢」、着替え場所なし。母と娘が抱える深い悩み
日本全国で高校野球に青春をかける女子部員が増えています。しかし、その舞台裏には、表には出にくい悩みや課題が多く存在します。今回注目を集めているのは、「トイレ問題」と「着替え場所問題」。彼女たち自身だけでなく、保護者である母親たちも胸を痛める切実な現実が、各種報道や取材で明らかになっています。
女子生徒の「トイレ問題」―膀胱炎になるほどの我慢
高校野球のグラウンドや練習場の近くには、そもそも女子用のトイレが設置されていない場合が珍しくありません。男子中心に作られてきた高校野球の伝統的な設備環境が、いま女子部員たちの身体的リスクを増大させています。
- 練習中にトイレに行きたくても、近くに女子トイレがない
- 練習を中断してまで「トイレに行きたい」と言い出せない雰囲気
- 特に冬期は体の冷えによる血行不良も相まって、症状が悪化
- 膀胱炎を繰り返す女子部員もいる
- 母親たちは「娘は気を使わせたくないから言い出せず、我慢している」と取材に答える
実際、取材で語られた一人の母親は、「冬は練習中にトイレにいけなくて膀胱炎になったこともあった」と苦悩をにじませます。「頑張っている本人を応援したい。でも、健康被害が心配」と複雑な思いを明かしています。
また、自分だけが特別扱いされたくない、迷惑をかけたくないという心情から、周囲に言い出せずに我慢してしまうケースが多々あるようです。
「着替え場所問題」―男子部員と共用できない環境の中で
トイレ問題と並んで、女子部員が悩まされているのが「着替え場所の確保」です。男子の多い部室がそのまま女子も使えるわけではなく、以下のような不都合が日常化しています。
- 部室は男子部員専用で、女子は教室や他の部の部室を借りて着替えるのが一般的
- 遠征や他校での試合で、着替えのための場所が用意されていない
- やむなくトイレで着替えざるを得ない場合もある
- 着替え中に他の生徒や大人と鉢合わせして、気まずい思いをしたことも
- 環境整備がなされていない現実に、「もう少し配慮してくれたら…」という母親の声
現状の設備では、女子のプライバシーが十分に守られているとは言い難く、それでも練習や試合に臨むために工夫や我慢を強いられているのです。
なぜ、こうした問題が放置されてきたのか
大きな背景には、日本の高校野球が長年にわたり「男子中心」で運営・整備されてきた歴史があります。女子生徒数が少数だった時代から設備改善が進まないまま、今日まで来てしまった現状があります。
アメリカなどでは、高校スポーツの設備が男女問わず共用・バリアフリー化されているのが一般的なのに対して、日本では運営サイドの意識や資金不足、前例主義的な体質などが障壁となり、改善がなかなか進んでいません。
母親たちの本音―「応援したい」気持ちと「健康被害」への葛藤
では、実態を知った保護者たちはどんな思いを抱いているのでしょうか。取材を通じて特に多く語られたのは、「娘の頑張りを応援したい。けれど健康や精神面が心配」という複雑な母親の思いでした。
- 「好きな野球を続けてほしいが、健康被害が出たら可哀想」
- 「学校や関係者に、もっと環境整備の配慮をしてもらえたら」
- 「目立ちたくない、波風を立てたくない気持ちが強いので、本人も我慢するしかない」
- 「他の男子部員や顧問の先生にも、少しでも理解してほしい」
母親たちは、設備の整った男子部員に対して、同じ努力をしているのに格差を感じて悔しい思いもしているようです。
生徒たち自身の思いと工夫
多くの女子部員は、好きな野球を続けるために「仕方がない」と自分を納得させ、我慢や工夫を重ねています。たとえば、着替えのタイミングをずらす、練習前に無理にでもトイレに行く、着替えは簡単なジャージで済ませるなど、日々の気遣いが尽きません。
一方で、「女子だから仕方がない」という環境自体が、本来は問い直されるべき時代に入っています。「自分たちの下の世代が困らないように、声をあげられる環境が欲しい」と願う女子生徒も増えているのです。
今後の課題と求められる環境整備
取材に応じた専門家や関係者たちは、今後次のような環境改善が不可欠だと訴えています。
- グラウンドや体育館の近くに男女別トイレを必ず設置
- 仮設でもよいので、男女別の更衣スペースの導入
- 教師・保護者・部活運営側への啓発活動やマニュアル作成
- 生徒自身が無理をしなくて済む「相談できる雰囲気」の醸成
- 高野連や県教委など「上位組織」からの整備指導・予算確保
「ただの不便」や「我慢」では済まされない健康被害―膀胱炎などの具体的なリスクが続いている以上、早急な対策が求められるのは間違いありません。
まとめ―「好き」を続けるために 社会全体での理解と後押しを
部活動の男女格差は、表面上は解消されてきたように見えても、現場にはまだ多くの「小さな大問題」が残っています。「女子高校野球」選手の現実は、今まさに私たち大人の意識改革を求めています。
今日もグラウンドで全力を尽くす女子生徒たちの背中には、周囲の理解と支えが必要です。保護者・学校・地域社会が連携し、「安心・安全」に応援できる環境づくりが強く求められています。