野田洋次郎「挑戦」の朝ドラ主題歌が賛否に揺れる『あんぱん』――視聴者の反応と現場の舞台裏

はじめに――『あんぱん』主題歌が話題に

NHKの連続テレビ小説(朝ドラ)『あんぱん』が遂に放送開始となり、大きな注目を集めています。今田美桜さんがヒロインを務め、やなせたかしさんと妻・小松暢さんをモデルにしたオリジナル作品であること、さらに主題歌を人気バンドRADWIMPS(ラッドウィンプス)が手掛けたことでも話題です。しかし、主題歌『賜物』(たまもの)をめぐり、視聴者からは賛否両論の声が巻き起こっています。特に、作詞作曲を手がけた野田洋次郎さんと、前作『虎に翼』の主題歌を担当した米津玄師さんとの“曲作りへのアプローチの違い”にも注目が集まっています。

RADWIMPS・野田洋次郎が朝ドラに託した想い

『あんぱん』の主題歌『賜物』はRADWIMPSのフロントマンである野田洋次郎さんが書き下ろし、自身が作詞・作曲を手掛けました。タイトルの「賜物」には「贈り物」「命」という意味がこめられており、ドラマ内の「命=借り物=賜物=贈り物」というテーマと深く呼応しています

野田さんは公式サイトのコメントで、主題歌制作にあたり「朝、出たくない布団から這い出す力が湧くような効き目があること」「のぶ(小松暢)に負けぬ瑞々しい生命力を持った曲であること」「挑戦と冒険をすること」を意識したと語っています。長年に渡って独自の世界観で多くのヒット曲を生み出してきた野田さんらしい“攻め”の姿勢での楽曲制作だったことがうかがえます。

“全然慣れない”という声――賛否分かれる視聴者のリアクション

  • ドラマの世界観と主題歌のミスマッチを指摘する声がSNS上などで目立ちます。毎朝の“顔”として馴染むはずの主題歌『賜物』について、「全然慣れない」「朝の気分に合わない」「萎える」という反応も
  • しかし一方で、「新しい刺激になって良い」「挑戦する姿勢に感動した」「歌詞の深さが素晴らしい」と野田洋次郎らしい音楽的展開を歓迎するファンの声もあります
  • なぜこのような賛否が生まれたのでしょうか。その鍵は、前作主題歌と演出方針の違いにあると言われています。

米津玄師との“曲作り”の違い――朝ドラ主題歌の王道とは

2024年のNHK朝ドラ『虎に翼』では米津玄師さんが主題歌を担当しました。米津さんは制作前に「朝ドラは毎日流れる曲。だからこそ、ライトで親しみやすいものを」と考え、世界観に溶け込む軽やかさを意識して曲作りを進めたのだそうです。実際、視聴者からは「耳馴染みが良く自然と心に残る」と高評価が集まりました

対して野田洋次郎さんはあえて“朝に背中を押すエネルギーや冒険心”を主題歌に託しました。その意思が強く出た楽曲は、今までの朝ドラ主題歌とは逆方向と言えます。ベースとなる発想、作曲姿勢の違いが、“親しみやすさをとるか、新しさをとるか”という分かれ道になったと指摘されています。

  • 米津玄師:「ドラマを支える楽曲としての調和」「親しみやすさ・日常に馴染む軽快さ」
  • 野田洋次郎:「キャラクターに寄り添うパワフルさ」「新鮮で冒険的な切り口」

現場の舞台裏――あえて挑戦を選択した理由

野田洋次郎さんは「賜物」制作にあたって、単純な応援歌や朝向きの“優しい調子”には寄らなかったそうです。本人が繰り返し語っているのは、「あんぱん」という作品自体が“挑戦”であり“冒険”だからこそ、その伴走者として新しい価値を模索したかったという想いです。

前作『虎に翼』の米津玄師さんが「日常の一部になるような主題歌」を意識したのと対照的に、本作ではむしろ「日常のルーティンをそっと揺さぶる」ことを目指した点が、大きな違いだと言えます

NHK朝ドラの主題歌は、その作品の第一印象を決め、半年間毎日視聴者の耳に残り続ける“顔”です。長年にわたって王道のバラードやアップテンポな応援歌が主流でしたが、今回の「賜物」は実験的な要素も強く、今後の朝ドラ楽曲の在り方にも一石を投じるものとなっています。

主演・今田美桜及びキャストのこだわり――“苦労の人”たちが紡ぐ力強い物語

ドラマ『あんぱん』のヒロインを務める今田美桜さんも「こだわりのオーディションを経て出演を決めた」と報道されています。今田さんは実は華やかに見えて長い下積み時代があり、多くの苦難を乗り越えてスターへと駆け上がった“苦労人”です。だからこそ、原作者やなせたかしさん夫妻の半生を描くこの物語と、強く共感できたと語られています。

「自分が小さい頃、アンパンマンに何度も励まされた。そのエネルギーを、今度は自分が届ける番だと思った」と、今田さんはインタビューで語っています。朝ドラならではの健やかな生命力と前向きなメッセージ、そして制作陣の挑戦への敬意も含め、より多くの人に見てほしいドラマになっています。

8月7日放送――キャスト・RADWIMPS一同が語り合う特番も

2025年8月7日には、『あんぱん』とRADWIMPSのコラボレーションにスポットを当てたスペシャル番組がNHKで放送されました。この特番では、今田美桜さん、北村匠海さん、そしてRADWIMPSが一同に会し、それぞれがドラマや楽曲に寄せた思いや、舞台裏エピソードについて率直に語り合いました。

  • 今田美桜さんは「音楽に背中を押されて何度も涙した」と述懐。
  • RADWIMPSの野田さんは「予想外の反響に戸惑いつつも、作曲時の想いと視聴者それぞれの解釈が出会うことの面白さを感じています」と話しています。

また、ドラマの世界観と主題歌が「本当にマッチしているのか?」「視聴者、キャスト、制作陣が感じる“正解”とは何か?」という問いも深く掘り下げられ、音楽とドラマの関係性について新たな気づきを与えてくれました。

野田洋次郎「賜物」「挑戦」へのエール――朝ドラにおける新風

これまでの朝ドラ主題歌が「日常の彩り」であったのに対し、『賜物』は「日常への問いかけ」とも言えます。「慣れない」「違和感がある」という反応が生じるのは、まさに視聴者一人ひとりの感性に寄り添おうとする“新しい朝ドラ主題歌”の証明かもしれません。野田洋次郎さんの真摯な楽曲制作、そして“苦労人”たちが歩むドラマの人間ドラマを、しばらく見守りたいと思います。

今後もRADWIMPSの「挑戦」と、物語の力強いメッセージに注目が集まります。

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