
肩の力がふぅ~っと抜けて、見ているだけで、なんだか楽しくなる。そんな気持ちがほっこりする作風が魅力の仲良し女子ユニット「tanetane(タネタネ)」。大磯出身のニチョウギエリさんは、草木染めでバッグや服、手ぬぐいなど生活に使うあれこれを、鎌倉出身のコスギマユさんは、彫金で動物や自然をモチーフにしたアクセサリーを作っています。色とりどりの草花があふれ、天国かと錯覚するような大磯の一軒家工房におじゃまして、作品づくりのひみつなどを教えてもらいました。
大磯で偶然出会った空き物件にビビビッ。口が勝手に「借ります」と動きました
草花に囲まれた素敵すぎる工房。
ニチョウギエリさん(以下ニチョウギ):大磯に工房を構えて、7年目になります。もともと、わたしとまゆちゃんは、神奈川県内の洋裁店で知り会って、働きながら、お互いに作品をつくって活動をしていました。2007年に一緒に展示を開くことになって、せっかくだから展示という堅苦しい形じゃなくて一軒のお店みたいな形でできたらいいね、ということで、鎌倉の商店街にあるお店の一角を借りて開催しました。
そのときに屋号をつけようということになって、当時の同僚に、居酒屋で飲みながら、どんな名前がいいかなぁ?と聞いたら、わたしたちを見て、「tanetaneで!」と、命名してくれました。わたしたちの雰囲気と、種を巻くときのわくわくした感じが出るように、という意味を込めてくれたみたいで、ふたりですごくいいね!と盛り上がりました。芽が出るようにと長いこと願いながら(笑)、うれしくて、ずっと大事に使っています。
工房内のちょい飲みカウンターが、ふたりのお気に入り。左がニチョウギエリさん、右がコスギマユさん。
ニチョウギ:展示の翌年に、ふたりとも独立しようとした時期が重なって、少しだけそれぞれで工房を探した後、一緒に工房を探しはじめました。最初は鎌倉を中心に探していたんですが、なかなか自分たちが想い描いているような物件が見つかりませんでした。そこで、わたしの地元の大磯にはどんな物件があるんだろうと思って、駅前の不動産にふらっと立ち寄ったら、たまたま良さそうな物件が紹介されていたので、見るだけでもと案内してもらったら、すごく気に入って。まゆちゃんに何も聞かないまま、「借ります」と、口が勝手に動いたんですね。本当に、口が勝手に。
当初は鎌倉と大磯のせめて真ん中にしよう、と話していたにも関わらず、わたしはなんてことを……と思いながらも、それぐらいビビッときてしまったんです。決まってからは、駅から歩いて10分ぐらいだし、まゆちゃんも気に入るよ、とか言ってみたりして、どうにか言いくるめられるように話してみました。
コスギマユさん(以下コスギ):はじめは「えっ!」と思いました(笑)。でも、物件を見たら、わたしも、ぴん、ときて。とくに、以前住まれていた大家さんご夫婦が新婚当初にわざわざ特注で作ったというカウンターが可愛くて、すごく気に入りました。最初は、通えるかな?と心配していましたが、仕事場として通ってみて、大磯は海も山もあって、両方あるっていいなと思いました。
肩の力を抜いた、気が抜ける作品があってもいい
ツギハギがかわいい、手作り感あふれる洋服。
ニチョウギ:わたしは大学で織りと染めを勉強した後、インドの最西端にあるカッチ地方へふらふらと旅に出ました。カッチ地方は、昔は国として独立していた手工芸が世界的にも有名な地域で、織りの村、染めの村、彫金の村などが集まっていて、ずっと行ってみたかったんです。実際に行ってみたら、すごく楽しかった。
生活レベルとしては低いと思うんですけれど、村には色があふれていて、色が生活をすごく豊かにしていました。自分たちで作るものは何でも作っていて、お父さんと子どもで、家まで建ててしまったり。自分が使うものを自分で作ると、生活が楽しくなる。そのときに、ものをつくって生きていこう、と決心しました。
服やバッグ、身の回りの自分があったらいいな、というものは何でも作る。
ニチョウギ:インドで感じた楽しい気持ちを伝えたいと思い、つくるときは暗い気持ちではなくて、楽しい気持ちを込めてつくっています。
コスギ:これどうかな?など、お互い別々につくったものを、見せ合ったりしているよね。
ニチョウギ:お互いの作品について、基本的に前向きに「いいね、いいね!かわいいね」とふたりで作品を褒め合って、気持ちを上げています(笑)。
それから、つくるときにはかっちりしすぎないように気をつけています。日本には美しいものがいっぱいあると思うんですけれど、どれも繊細ですよね。インドには、あっ、これでいいんだ、と思える、気が抜ける作品もたくさんあって、ほっとしたんです。日本では、みなさん、きびきび、あくせく働いていると思うので、わたしの作品を通して、こんなに肩の力抜いて仕事をしてもいいんだ、と思っていただけたらいいですね。
お母さんから子どもへ、ずっとつながっていくものを作りたい
下書きなしで、切っていく銅や真鍮の板。パズルのように組み合わせて、捨てずにすべて使う。
コスギ:わたしは大学を卒業してから、服の販売員として働きつつも、昔から絵を描くのが好きで、形にできるものをつくって暮らしたいとずっと思っていました。ある日、母親が“彫金”というのがあるみたいだよ、と教えてくれて、体験ができる場所もあったので、指輪をつくってみたら、すごく楽しかったんです。それほど大きなきっかけでもないですが(笑)、なんかいいかも!と思って、服屋さんを辞めて、ジュエリー屋さんの工房で修業しながら、彫金の専門学校へ通いました。卒業後は洋裁店で働きつつ、自分の作品を作り始めました。
ふくろうや猫、木などをモチーフにした作品。
コスギ:動物が好きなので、動物をモチーフにしたものや、水や葉っぱ、木、山、それに月も好きなので月など、自然にあるものを中心に形にしています。今は何でも量産しているものが多いですよね。でも、わたしは世界に1つだけしかないものを作りたくて、同じような形をしていても、同じようにならないように型は取りません。ささっと絵を描いたら、それを見ながら金属の板に傷のようなものをつけて、糸のこでざくざく切っていきます。普通の人は、きっちり描くと思うんですけれど、わたしはまっすぐな線が好きではなくて、扱うのが硬い素材であっても、絵で描いた時のようなラフな線が好き。
金属のいいところは、世代を超えて身につけられるもの、というところだと思っています。たとえば、お母さんがつけていたものを子どもに渡して、子どもがまた子どもに渡して、という風にずっと残していけるんじゃないかな。
大磯市は、顔見知りのお客さんや出店者と会える、楽しい社交場
大磯市で販売する、唯一の定番商品「草木染め手ぬぐい」。
ニチョウギ:わたしたちは、手売りを大事にしています。1個1個、手でつくっているので、お客さんに喜んでもらえる姿を目の当たりにできることが、すごく幸せなんです。その分、販売できる数も限られているので、決して贅沢な暮らしではないですが、毎回、展示が終わると、また布が買える~!また作っていいんだね!と喜びをかみしめながら、生きています(笑)。
大磯市は、わたしたちにとって、楽しい社交場です。出店者同士のつながりがしっかりしているので、ほかのイベントや展示会に出店するときよりも、心強いです。いつもは工房にこもっているし、すごく人見知りだったりするんですが、大磯市で隣同士になったりすると、一緒にいる時間が長いので、自然と仲良くなれるんです。
大磯市に出店している、陶芸家の岡村工房の友くんと奥さんのなっちゃんとは展示会を行き来する仲に、「モコ木工」のモコちゃんやパウンドケーキ屋さんの「三日月」のおふたりとは、お互いの家でよくごはんを食べたりしています。それから、去年、藍を育てる畑を探していたとき、農家の農太郎君に相談したら、「ここを好きに使ってください」と畑を貸してくれたので、「いいんですかー!?」とびっくりすることもあって、人と人のつながりは、大切だなぁと思いました。
お庭の手入れはバッチリ。
ニチョウギ:ただ、農太郎君に借りた畑に関して、わたしたちはぜんぜん管理ができなくて、畑仕事の大変さを実感しました。農太郎君の畑は、いつ訪れてもキラキラ美しく整っていて、わーキレイだね~とふたりで感動しています。
コスギ:その一角で、わたしたちの藍がボーボーに生えてるよね。雑草の成長がすごくて、藍が埋もれて、なくなっちゃって。いつもはプランターで育てていたのですが、初めて畑で収穫したら、プランターで育てるのとは、ぜんぜん大きさが違ったね。とっても立派で、良い色が出たよね。
大磯の友達を増やして、もっと大磯に根づいていきたい
岡村工房さんの話をしながら、わざとらしく岡村さんが作ったお気に入りのカップをアピールするニチョウギさんに、笑うコスギさん。
ニチョウギ:大磯市が始まってから、町に若い人がすごく増えて、活気が出ました。大磯はみんな通過するイメージだったのが、降りてくれる人がすごく増えました。
コスギ:わたしが通いはじめた頃は、静かな駅だったけど、大磯市の日はすごくたくさんの人でにぎわって、明るくなったね。同世代の友達も増えてきたね。
ニチョウギ:大磯は、巨匠クラスの画家や陶芸家さんなどのすばらしい方々が多く住んでいらっしゃるんですが、お近づきになるには恐れ多く、お友達という感じではなかったので、若い人が歩いている姿を見かけるだけでうれしいです。今まで、鎌倉に目が向いてようなところもあったんですが、せっかく大磯に工房を構えているので、これから大磯の知り合いを増やして、もっと大磯に根づいて活動できるように、がんばりたいです!
<プロフィール>
tanetane
2008年に活動をスタート。春は春らしく、夏は夏らしく、年に4回、季節を感じさせる工房を開放して「tanetane店」を開催。そのほか、大磯駅すぐの「つきやまArts&Crafts」の「GALLERYお風呂場」、茅ヶ崎の「okeba gallery&shop」、「GINZA HKKO 木の香」などで、年に8回ほど展示を開いている。
HP http://tanetane.info/index.html
問い合わせ:info@tanetane.info
ニチョウギエリ
神奈川県大磯町出身。服飾大学卒業後に、モンゴルやインドなど旅して、ものづくりで生きていくことを決める。2007年から「ucauca」として、草木染のものづくりを始める。草木染めの何度も時間をかけて、染めていく時間が好き。自然を汚さないものづくりを心がけている。自然、動物、旅、ビール好き。
コスギマユ
神奈川県鎌倉市出身。女子美術大学短期大学部アパレルデザイン卒業。ヒコみずのジュエリーカレッジジュエリーメイキングコース修了。2005年から「JUSTIMAJINE」として活動をはじめる。真鍮や銅シルバー素材を使ってひとつしかないものづくりをするほか、シルクスクリーンなどで生地に絵柄をプリントして、服を作ることも。動物、自然、写真、絵を描くことが好き。