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お腹だけでなく、心も満たす“ごはん”を届けたい。旅するタイ料理屋台「Nomadic Cafe」

2015.09.18 | 出展店舗
お腹だけでなく、心も満たす“ごはん”を届けたい。旅するタイ料理屋台「Nomadic Cafe」

いつからか大磯市に登場したキッチンカーエリア。世界各国のフードやドリンクを販売する人気移動販売車がずらりと並び、ランチタイムやディナータイムには長い行列ができる人気エリアとなっています。

そんな移動販売車の中でも、本格タイ料理を味わえる店として人気を集めているのが「Nomadic cafe(ノマディック・カフェ)」。グリーンカレー、ガパオ、カオマンガイなど、人気のタイ料理を、現地の料理学校で修行したシェフが好みの辛さで提供してくれます。多くのリピーターを集めているこのお店、人気の秘密は、どうやら味だけではなく、店主の生き方にもあるようです。

旅を続けるNomadic cafeの店主・山口健太さん。そのノマドな人生のストーリーを、一緒に味わってみてください。

仲良くなるとき、いつもそこに“ごはん”があった。

もともとは、食ではなく、環境に関する仕事をしていました。河川の保護を行うNGOで、魚類や水質の調査をしたり、啓蒙活動をしたり。でも狭い業界で、みんな自分の担当している川の話しかしなくて、隣の川のことでさえ見ていなかった。環境って、雨が降って山からしみでた水が川になって海に流れて…って、全部つながっているし、環境破壊も隣の国の行為の影響を受けたりする。「もっと広い世界を見てみたい」と思って、そこを辞めて旅に出ることにしました。

自転車を買って、キャンプ道具を買って、まずは東京から大阪まで走って、大阪からフェリーで上海に渡って、上海から長江沿いに走って。途中フェリーに乗ったりもしましたが、香港に入って、また中国に戻って、ベトナムに行って…みたいな感じで7〜8ヶ月くらい旅を続けました。その旅は、ベトナムで車にひかれて自転車が壊れてしまったこともあって中断してしまいましたが、日本でも旅の延長で四国の友人を訪ねて、そこでしばらく過ごしたりしていて。ようは、いろんな国の人たちが何を考えて、どんな暮らしをしているのか知りたかったんですよね。あとは、自分の体力の限界が知りたかった。若かったですね(笑)。

そのあと、アパレルの仕事をしながら、休みをとって、中断してしまった旅をつなぐために、今度はタイから入ってベトナムの方に下っていきました。その後、四国で出会ったおばさんの運営している託児所を手伝ったり、旅で描き続けた絵を仕事にしてみようと、タイに渡って1年くらい絵描き生活をしたこともあって。

その過程で本当にたくさんの出会いがありましたが、旅先では、全然知らない人が「家に食べにおいで」って誘ってくれたり、ご飯をおごってくれたりしたんです。人と仲良くなるときには、いつも“ごはん”を介していて、一緒に食卓を囲んだ人とは、もう一歩踏み込んだところに行けるような気がして。言葉が通じなくても、食べ物の話は盛り上がったりするし、健康や経済、環境、文化ともつながっているし、「食」にどんどん興味が湧いていきました。

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移動販売車には、山口さんが描いた絵も展示されています。お願いすれば、絵を描く仕事も受けてくれるとのこと。

そんな想いから、1年ほど暮らしたタイで料理学校に通い始めました。言葉の壁がありましたが、まわりに助けてもらいながら必死で勉強して。その頃、常連だったカフェ・レストランのお母さんと仲良くなって、そのうちに料理を教えてくれるようになって。30歳になって日本に帰ろうと決意したときに、涙ながらに「日本でタイ料理を広めてくれ」と言われたんです。

子どもの頃からマイ中華鍋を持っていたり、もともと料理好きでしたが、職業にしようとは思っていなかった。でも、その言葉がずっと頭に残っていて、そのあと一旦アパレルの仕事に戻りましたが、次に「新しいことをやろう」と思ったとき、お母さんの言葉を思い出しました。食べることは生きる根源にあることだし、それを生業にしてみるのも面白いかな、と「タイ料理をやろう」と決めました。

届けたいのは、食べ物だけじゃない。

まずは都内のレストランで働き始めて、楽しくやっていたんですが、結婚を機に茅ヶ崎に住むことになって、通えなくなってしまって。その後、横浜の店にも勤めましたが、キッチンと客席が離れていて、誰がどんな顔をして食べているのか、食べ残したのか、様子が全然わからなかった。長時間労働で人間らしくない生活になってしまうし、大手の飲食店では、化学調味料もガンガンに使っているイメージで、それがすごい嫌だったんですよね。僕は旅もしたかったですし、僕が習ったタイ料理は、自然の草や花で着色したり、出汁もちゃんととったり、化学調味料を使わない学校だった。だったら自分でやりたいと思って、「旅をしてきた」という自分の強みを活かして、移動式で遊牧するカフェにしよう、と、車を自分で改装して移動販売を始めることにしました。

メニューは、グリーンカレーやカオマンガイ、子どもも食べられる甘口のガイヤーン丼など、タイ料理でも人気のものを定番として、出店場所によって変えたりしています。辛さは好みで調節できますし、季節によって野菜を変えたり、日本の野菜とタイのスパイスを合体させて新しい味をつくったり。僕はタイ料理を極めたいというよりは、移動販売でタイ料理を知ってもらいたいと思っています。「辛い」とか「パクチーいっぱい」とか良く言われますが、タイ料理には、全然辛くない料理やハーブ臭くないあっさりした料理もあるんです。それにイベントでは子どもからおじいちゃんまで来ていて、ちょっとずつ食べたかったりしますよね。やっぱり相手がいてつくるものなので、食べる人の声を聞いていきたいな、と思ってつくっています。

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定番メニューのガパオは、本格的な味ながら唐辛子を抜けば子どもも食べやすいと、老若男女問わず人気。

そういう意味では、僕の料理は、「売りがないのが売り」なのかもしれません。化学調味料は使っていませんし、素材にもこだわりはありますが、それを全面的に打ち出すのは、なんだか嫌なんです。そういうラベルじゃなくて、味を気に入ってくれた人が食べに来てくれればいいですし、僕は食べ物だけを届けているわけじゃないと思っていて。この形式でやっていると、辛さの程度を聞かれたり、ゴミを持って戻って来てくれたり、必ず会話が生まれますし、実際買わないでしゃべりに来るだけの人もいる。おばちゃんが饅頭持って息子の相談に来たり、子どもが顔を見に遊びに来たり、僕はそういうのが嬉しかったりするんです。

店舗じゃないので、完璧な料理は出せない。でも、お客さんは、話したりイベントの雰囲気を楽しんだり、もっと総合的なもので来てくれてる気がしていて。僕のお客さんはほとんどがリピーターなんですが、出店する度に仲良くなっていって、お互いの体調を気遣うようになったり。そういう“人と人の付き合い”が始まると、やってて良かったな、と思います。

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「店を出す」という決意と、本当に伝えたいこと。

大磯市のことは、僕が茅ヶ崎で出店しているときに、実行委員の方から声をかけてもらって知りました。初めて出店したのは、2010年の終わり頃。その年の初めに移動販売を始めて、都内のイベントに出店したり、江ノ島や茅ヶ崎駅前で定期的に出店していましたが、大磯市も面白そうだと思って出てみました。

大磯市はやっぱり、お客さんも出店者もみんなあったかい。並んで買ってくれて「暑いのに大変ね!」って声をかけてくれたり、ジュースを持ってきてくれたり、出店者の人も予約して買いに来てくれたり。そういう方々の顔を見るとホッとしますし、忙しいのに殺伐とせずに仕事ができるというか、そういう雰囲気がありますね。

出店者の方とはどんどん仲良くなって、nomadic cafeの紙細工をつくってくれたり、Tシャツをつくってくれたり、コラボできたりするのもいい。個人店の集合体で、みんなが“個”で、お互いに気持ちがわかると言うか、そういう雰囲気がいいのかな、と思います。今では全く営業活動をしていないのですが、大磯市でできた人とのつながりで仕事にも広がりが出てきています。

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そんな大磯の雰囲気が気に入って、実は1年ほど前から、大磯で店舗を持とうと、物件を探していました。ここ数年、「お店はどこですか?」とか「普段はどこで食べられるの?」とか聞かれるようになったこともあって。でも、店舗でバリバリ稼ぐというよりは、みんなの秘密基地みたいに、お客さんがふらっと来て遊んだり、実験的に料理したり、未来のことを考えたり、そういうアトリエ的なスペースがあってもいいかな、と思い始めて。

結局、大磯ではいい出会いがなく、今住んでいる茅ヶ崎で店を開くことを決めたのですが、その店で、仲間や家族、地域の人と、みんなごちゃまぜでお互い助けあいながら、コミュニティみたいな感じで楽しむのも面白いな、と思っています。これまではひとりで旅をしたり、ひとりで考えたりしていたのですが、みんなとならもっと面白いことをいっぱいできるんじゃないか、って。そういうワクワクを提供していきたいですね。

だから究極のところ、食べ物屋さんでなくてもいいんです。料理は好きだし、暮らしの中に入りやすいので、媒介として存在していますが、僕が一番大事にしているのは、「人」と「自然」。僕は子供の頃から海や山の中に入って行って生き物と向き合ったりしていて、自然の中で生かされている感覚が原体験としてあって。その自然がどんどん壊れていくのを目の当たりにして、それをなんとかしたくて東京に出てきたんです。

自然がないと人間は生きられないし、人間がちゃんと自分の立場をわきまえて生きていくということが、みんなの心の優先順位の一番に挙がるような世の中になるといいな、って。これまでの環境の仕事も、アパレルの仕事も、自然のガイドの仕事も、もちろん旅も、そういう意味で僕の中では全部つながってる。理屈じゃなくて感覚的に、自然があって、僕らが生きていて、それが心地よく続いていくためにどうあるべきか、ということを伝えていけたらいいかな、と思っています。

まあ、そんな言葉にならないようなことが、僕の仕事なんです。店舗を持っても移動販売車での活動は続けますし、大磯市には出店し続けたいと思っています。買わなくてもいいので(笑)、気軽に遊びに来てくださいね。

 

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【Nomadic Cafe】
湘南各地を中心にイベント出店やケータリングを展開する、タイ料理の移動販売車。2015年秋以降、茅ヶ崎で店舗を開店予定。

Facebookページ https://www.facebook.com/NomadicCafe?fref=ts

池田 美砂子

茅ヶ崎在住フリーライター、ひとりの娘のお母さん。人の言葉をありのままに聞くことで本質を見つめるインタビューを、ライフワークとしています。使命は、「ほしい未来を自分の手でつくる人を増やす」こと。この世にもっと、ワクワクを。